· 

汚職事件とコロナ禍に揺れるカジノ構想(3)

あ然とする横浜市長の「ハヤシビデオ」作戦

 

 日経新聞がIRカジノの進捗で『IR基本方針半年遅れ 決定来月以降に 新潟コロナ対応を優先』との記事を出稿し、松井一郎大阪市長がそれに応えるように大阪カジノ開幕の1、2年延期を述べた記者会見前日の6月3日、大阪と同じようにIRカジノ整備を進めている横浜市の林文子市長は、あ然とする提案を記者会見で表明した。新型コロナ対応で中断している市民説明会に代わって、自分が登場するビデオ説明をインターネットで流すとともにDVDも貸与するというものだ。ただ来月にも開始と言いいながら、具体的なことは示していない。

 

 2017年の市長選挙などでは「カジノに白紙」を装っていた林市長は昨年8月22日突然、カジノ誘致を表明した。しかし、これまで繰り返してきた「市民の意見を聞いて」いない中での表明だったため、記者会見では自分が出席する市民説明会を全ての行政区で開催するとも付け加えた。

 ただ市民の怒りや批判は根強く、同年10月初め朝日新聞が行った横浜市民対象の世論調査ではカジノに反対が64%に達した。これは横浜市民に限ったことではなく、日本世論調査会が昨年12月初め全国で行った面接世論調査でも、64%が国内整備に反対。特に自分の住む市町村や生活権への整備への反対は77%に及んでいる。

 林市長が示したのは、18ある横浜市の行政区すべてで市民説明会を行い、理解を得るというもの。昨年12月から12の区で一応の説明会を行ったが、コロナウイルス感染拡大で3分の1に当たる6つの区では説明会が行われていないままになっている。横浜市の全人口は約370万人だが、対象6区の住民は約120万人。人口でも3分の1に当たる。

 12の区で進められた説明会の内容も、民放テレビのコメンテーターが「ちょっと、ひどいですね」と嘆息するレベルだったが、林市長は「1回だけでなく(理解をいただくまで)何回もやる」と説明して、今日に至っている。しかし緊急事態は全面解除はされたものの、多人数の集会は自粛だとして、残る6区での市民説明会の予定を示していない。こうした中で出てきたのが、ビデオ配信やDVD貸与による代替策という。

 林市長は6月3日の記者会見で「DVDを作っている。説明をビデオに撮って配信する」と述べたが、詳細は明らかにせず。代わって天下谷(あまがや)秀文IR推進室長が補足し「オンラインの説明会は検討したが、通信環境などから困難。同時に(配信するのは)難しい。12区で行った説明(と同じもの)をビデオに撮って送る。また質問は、これまでいただいたものの中から、私ども市の方でピックアップしてお届けしたい」と述べ、今流行の双方向のオンライン会議方式を拒絶。インターネットでの配信を主とするが、そうした環境にない人にはDVDの貸与も検討していることを明らかにした。

 室長によると、「既に作業に着手しており、1カ月以内に何とかお届けしたい」とのこと。しかし、市のホームページにアップするなどしてインターネット配信するとしても、「説明時間の3分の2は自分の宣伝」とメディアでも批判された演説を延々と続ける内容になるのか。2時間近くの番組を流した場合、受信する側の負担をどう考えているのか。さっぱり分からない。

 さらにDVDの貸与というが、120万人に対して、何枚くらい、どのような方法で貸与するのか。IR推進室の職員も「検討を始めたばかりで、まだ具体的には言えない」と口を濁す。ただ、1枚でも貸与したので「区民が理解した」とはまさか言えないだろう。

 この「ハヤシビデオ」作戦、自民党から「代替案を考えろ」と指示されて、思いついたとされる。結局は推進策やパブリックコメントの作成などと同様、高額で外部委託して進めるのだろうが、強引にやっても既成事実とできるのかどうか。多人数の集会がなかなかできないというのなら、少人数で、分散して何回かに分けて説明会を開けばいいだけ。時間をかけても、市民に直接会って説明する方が近道ではないか。

 カジノIR推進派に衝撃を与えた日経新聞の6月4日付けの記事。その中で、基本方針決定

を遅らせる理由について、「カジノはギャンブル依存症などへの懸念から反対論が根強い。IR整備に関わる政府高官は「コロナ禍の最中にIRの準備を急げば国民の反発を招く」と話す」という一文。

林市長始め市幹部は、この政府高官のような認識を持っていないのか。それとも横浜市民を舐めきっているのだろうか。

 ただ、林市長や市の幹部には気が気でないことがあるはずだ。それは、なぜ、IRカジノ整備の基本方針決定が遅れているのかということだ。遅れた原因の一つは秋元司衆議院議員が収賄容疑で逮捕・起訴されているカジノ汚職事件である。秋元議員は今年1月25日に逮捕されたが、その直前、千代田区にある大手カジノ業者の日本法人が東京地検によって家宅捜索された。

 検察は明らかにしていないが、それが香港にあるメルコ・リゾーツ&エンタテインメント(メルコ)であることは多くの人が知っている。メルコはサッカーJリーグ、横浜マリノスのスポンサーに加わったほか、下町の祭りにも寄進したり、横浜駅構内に目立つ看板を立てるなど、市内のあちこちに爪痕を残している。その一方で、秋元被告との関係は濃くないようだ。黒川弘務元東京高検検事長という枷を外した検察庁が何を考えているのか。関係しそうな政治家も交えて、固唾を飲んで成り行きを見守っているのではないだろうか。