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安倍首相訪英時に原発から撤退を決定した日立

撤退報道で株価が上昇、市場は「脱原発」に

 

 日立製作所が英国で計画している原発建設から撤退を決断したというニュースが11日に一斉に報道された。各社の記事はほぼ同じ基調で、日立は2012年に買収した英国の原発事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを通じて英中部アングルシー島で2基の原発建設を計画していたが、約3兆円とされる事業費の不足分に対して英政府からの支援が得られないとして撤退(社によっては「中断」)を決めたというもの。

皮肉なことに、この報道が流れた後、日立の株は一時9%も値が上がった。撤退決断報道直前の11日付け日経新聞朝刊は「2019年の注目銘柄」という連載コラムで日立を取り上げ、『日立、巨額買収が迫る決断 市場は英原発撤退を期待』との見出しで、米原発事業で巨額の損失を出した東芝の二の舞になる恐れがあり、撤退すべきだという証券マンの談話を掲載していた。市場の動きは、原発は経済的にも成り立たない産業であることを浮き彫りにしたといえる。

 

▽3000億円もの特別損失計上か

 日立が英国での原発計画凍結を決断したというニュースはこれが初めてではない。昨年12月16日付けで共同通信が報じ、読売などが掲載している。注目されるのは、今回のニュースが安倍首相とメイ英国首相との日英首脳会談直後に一斉に流れたことだ。最も早かった日経新聞電子版は同日午前11時すぎ速報している。日英首脳会談では日立の原発問題は出なかったとしているが、直後の一斉報道は日立が会談の行方を待って最終決断したことを意味するものではないか。安倍首相の今回の英国、オランダ「とんぼ返り」訪問の目的は何であったのか。首脳会談では「メイ首相のUE離脱案を支持する」と伝えたというが、この程度であったら、電話会談でも済む話だからだ。

11日付けの読売は「日立は昨年12月中旬に米国で開いた取締役会で計画の凍結を事実上決め、日英両国政府にも伝えていた」と報じている。先の共同電はこの取締役会決定を基に書かれたものといえ、1ヶ月以上も最終決定が遅れたことは安倍政権の意向が大きく左右したと言えるのではないか。

 日立は既に昨年夏頃から英での原発事業からの撤退を示してきた。この当時の損失規模は2700億円と報じられていた。今回、損失は最大3000億円規模に膨れ上がり、3月期決算に計上するという。まだ建設も始まっていないのに、「毎月数十億円の費用が発生している」(11日付け日経夕刊)といい、早く決断しなければ東芝の二の舞は避けられない状況だった。東芝は6000億円もの巨額損失が首を絞め、虎の子の半導体事業を売却するなどして延命を図っている。日立の3000億円とされる特別損失も、今後どのくらい膨らみ、どう経営に影響してくるのだろうか。

 その「毎月数十億円の費用」の一端を12日付けのTBS「報道特集」が示している。ホライズン社は地元のセーリング協会に巨額の寄付を行い、産業展示会にブースを設置して宣伝に努めている。こうした費用が嵩むのが原発特有とも言え、コストに跳ね返っている。日本の原発開発でも、同じように多額の費用が住民宣撫やよく分からない施設建設などに使われてきた。日本の場合は、そうした不透明な支出は「総括原価方式」により、人々が支払う電気料金に含まれている。

 

▽経済的に成り立たない原発事業

 日立、東芝、三菱重工は日本の原発メーカー三羽烏といわれ、3社とも東京電力福島第一原発爆発事故以降、特に安倍政権の「成長戦略」に従って海外展開を積極的に進めてきた。日立を例に取ると、2012年10月28日付け毎日新聞は「原発受注、海外に活路」「日立、電力会社との協力課題」という記事で、「日立が英国の原発事業会社『ホライズン』を月内にも買収する見通しになった」と伝えた。当時の買収額は5億ポンド(約650億円)としていた。

この記事でも見られるように、特徴的なのは「原発メーカー」と称しながら、日本の企業には実際に一から作り上げて、運転し、使用済み核燃料の処理までできる能力がないことだ。このため海外の専門企業を買収し、さらに合弁などで開発・建設から運転まで請け負う体制を作らなければならない。しかし予算高騰で断念した三菱のベトナムやトルコでの原発開発、原発専門メーカーである子会社の精算に追い込まれた東芝。いずれも原発が企業経営を圧迫している。

こうした買収費用などが想定外に膨らむことは東芝のケースでも明らかだが、安倍首相の「トップセールス」に対して、これまできちんと対応してきたのだろうか。多額の税金が費やされた政治主導のトップセールスで、聞き心地のよい説明を受けた結果、撤退となったら政治責任も浮上する。経済産業省の責任が問われる。

 これまで経産省や原子力ムラといわれる人たちは、原発が他の電源に比べ経済的に安価であることを強調してきた。しかし、こうした人たちの示す数字が恣意的であることが次第に認識されてきている。発電時だけの価格ではなく、開発から建設、運転、廃炉に至る全費用を計上して、他の電源よりも安価なのか示そうとしない。

 先の2012年10月28日付け毎日新聞記事は、日立のホライズン社買収によって「停滞している日本メーカーの原発事業の海外展開に弾みがつく可能性がある」とのんきに書いていた。しかしホライズン社の設立母体だったドイツの企業は、2011年3月11日の東電福島第一原発事故を受けた世界的な脱原発の動きを受けて、売却を表明していた。それにもかかわらず、事故被害を目の当たりにしていたはずの日本企業は原発開発に邁進してきた。

 

今回の日立の決定は、皮肉にも原発が経済的に成り立たないことを明るみに示したもので、市場は既に「脱原発」に立った動きしている。もう覆すのは不可能だろう。