次世代エネルギー開発への一歩となるかハマウイング

ミナトヨコハマの風力発電所を見た

 

横浜市民なら知っている人が多いだろうし、朝のテレビ情報番組などでミナトヨコハマの映像が流されている時出てくるので、みなとみらい地区の対岸に1基の風力発電の羽根(ブレード)が回っているのを目にしたことがあるだろう。「ハマウイング」と呼ばれる横浜市所有の風力発電所だ。当時の中田市長が公募したアントレナーシップの一つとして採用され、2006年(平成18年)に完成し運転を続けている。そのハマウイングをこのほど横浜市地球温暖化対策推進協議会の案内で見に行った。

 

△所在地は市の中心だが米軍基地の島

ハマウイングは横浜市の市有地にあるのだが、市民は簡単には見に行けない。みなとみらい地区の対岸約15キロに黒っぽく広がる人口島の一角にあるが、一般開放されていない。ほぼ全体が在日米軍輸送施設と呼ばれる米軍基地になっており、渡るには瑞穂橋という橋を通らなくてはならず、見た目では気がつかないような検問が実施されているからだ。

ハマウイングは横浜市環境創造局が運営管理しているが、見学に際して担当者からは最初に①米軍基地に向かってカメラを構えないこと②基地に向かって石などを投げないこと〜などの注意が。実際、カメラの撮影方法や基地外の道路の走り方だけでも米軍から「叱られる」という。

ハマウイングの建設にあたり約5億円の建設費として、市は事業特定型の住民参加型市場公募債「ハマ債風車(かざぐるま)」を発行し55%分を販売。約350人が買い求め、3日間で完売したという。残る45%は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が出資。市の公募債はその後全額償還された。一方、事業運営は協力事業者の拠出で賄われている。

 

 

△年間CO21千トン削減

完成した風車はデンマークのヴェスタス社製。高さ78メートルの円筒形のタワーの先端に3枚のブレードと呼ばれる長さ40メートル弱の羽根があり、その後ろに発電機や変圧器などが収められた箱がある。秒速4メートルの風速で発電を開始し、逆に暴風などで同25メートルになると発電を停止する。最も能力が出るのは同15メートルで、この時の出力を定格出力とし1980キロワットとしている。見学した日は地上風速が46メートルで450600キロワットの発電だったが、それでも約1100世帯の電力に相当すると電光掲示版にリアルタイムで示された。この程度の風力でもブレードの風切り音はかなりある。

運転開始時から見学日までの累積発電量は約24000メガワット時。1メガワット時あたりドラム缶約25本分の石油を節約し、年間では二酸化炭素(CO2)を約1000トン削減したことになるという。定格出力が出る風速15メートルの風が吹き続けると8年ぐらいで減価償却は終える計算で、その後は利益になるとのこと。ただ、この市営風力発電所は一般家庭向けには送電していない。

 

△発生電力で水素を製造

当初はパートナー企業向けに送電していたとのことだが、環境省から「地域連携・水素技術実証事業」の委託を受け、2015年度から4カ年計画で、再生エネルギーを活用した低炭素な水素サプライチェーンモデルを構築する実証事業をパートナー企業らと行っている。本来なら間もなく実証事業は終了するのだが、2020年の東京オリンピックで海外から来る人たちに、地球温暖化対策として見せようとする動きなどが出て、終点は微妙らしい。

水素は酸素と化学反応を起こし発電する。排出するのは水だけなので、有害物質やCO2を出さない。燃料電池車(FCV)や水素発電などへの次世代のエネルギーとして注目されている。2014年にトヨタがMIRAIを発表、16年にはホンダもFCXクラリティを発表して市販するなど話題にはなっているが、車の価格が高いことや水素ステーションがほとんどないことなどから本格的な普及には至っていない。水素を得るには水を電気分解すればいいわけだが、肝心な水素の供給は今は天然ガスなどからの分解が大半となっており、100パーセント低炭素というわけではない。天然ガスから電気を取り出す方法は、家庭用燃料電池エネファームなどに実用化されているが、小規模に留まっているのも実情だ。

克服しなければならない課題は多々あるが、再生可能エネルギーを使った水素製造と水素を燃料とした発電や動力というのは世界中で研究開発されている課題である。風力発電ハマウイングとクリーン水素活用モデルは、小規模ながらその実証に取り組むものといえる。

 

△市内のフォークリフトで水素利用

そのシステムは簡単だ。ハマウイングが生んだ電力で「水電解装置(水素発生装置)」を動かし、水を電気分解して水素と酸素に分解し、水素を貯蔵タンクに送り圧縮機で高圧に。450気圧に加圧された水素を簡易型水素充填車に積み、需要家のところまで運ぶ。ちなみにMIRAIなどのFCVでは700気圧に加圧された圧縮水素を使用している。基本的な仕組みはこれだけだが、風力発電は絶えず定格出力でブレードが回っているわけではない。発電量が少なくなっても対応できるよう構内に蓄電池を重ねた「水素製造安定化システム」を設けて、風力から取り出した電力の一部で電池を常時フル充電して出力不足に対応している。この電池にはトヨタ・プリウスから取り出したリユース電池が180個使われており、使用済み電池の再利用という環境配慮もある。ここまでの設備がハマウイングの構内にあるものだ。

製造された水素は簡易型水素充填車で、横浜市中央卸売市場青果部やキリンビール工場など市内4カ所の施設に運ばれ、直接燃料電池フォークリフトに充填され作業に利用されている。

 

△各国は温暖化をビジネスチャンスに

ハマウイングはもともと再生可能エネルギーのモデルとして建設されたもので、1基しかない上、あまり強風の吹かない内湾に建てられたこともあって、商業用としてみれば赤字という。しかし風力発電は減価償却が終われば、その後はメンテナンスに費用が掛かる程度で、24時間利益を生み出している。減価償却後は丸儲けというのは水力発電と同じようなものだが、コストパフォーマンス的にははるかに高い。世界中で風力発電が急速に伸びている理由には、こうした点もあるようで、自然エネルギー世界白書(2016年版)によると全世界の風力発電累計導入量は433ギガワット。特に16年は1年間で63ギガワットも増えている。

同じ資料によると、国別では中国が圧倒的に多く150ギガワット弱で15年には30.8ギガワットも増えている。2位は米国だが中国の約半分、しかし米国も15年に8.6ギガワットも増やした。一方、日本は約3ギガワットで中国の50分の1弱、世界で10位にも入っていない。大量の風車を設置できる場所の確保が困難、台風などに耐えうる風車が必要なためコストがかさむ〜などという理由が挙げられているが、電力会社の原子力や化石燃料依存、再生可能エネルギー軽視(あるいは敵視)という問題があるのではないか。

今年の流行語大賞のトップテンに「災害級の暑さ」という言葉がランクインした。それだけ今年の異常気象は人々の印象に残ったわけだが、だからといって2日からポーランドのカトヴィツェで始まった地球温暖化対策を討議するCOP24(国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議)への関心は非常に薄い。COPを前に、自国の首相がCO2を大量に排出する石炭火力に邁進していることを抗議する小中高校生のデモが何万人もの単位で繰り広げられたオーストラリアと比べると雲泥の差だ。

しかし中国などが地球温暖化対策や再生可能エネルギー促進に躍起となっているのはビジネスチャンスだからだろう。ここで何もできなかったら、世界から置いてきぼりを食らいかねない。横浜の小さな実証実験に参加しているトヨタ、東芝、岩谷産業などは、国民の無関心とは裏腹に、そういう思いで横浜からビジネスを生み出そうとしているに違いない。