· 

「歴史遺産を行く」 愛知県半田にあったビール会社と赤レンガ建物

 赤レンガの大きな建物としては、横浜市みなとみらい地区にある赤レンガ倉庫が有名で、毎年多くの観光客が訪れている。これと同じような赤レンガの建物が愛知県半田市にあることを過分にして知らなかった。別の調べ物をしていて、赤レンガの建物がそのものずばり「半田赤レンガ建物」という名前で保存、公開されていると知って見に行った。

▽地方都市で生まれたビール

 場所はJR武豊線半田駅や名鉄河和線知多半田駅のある市中心部から少し離れた榎下町というところにある。国道247号に面した、かなり大きな赤い建物がそれだ。1898年(明治31年)、新鋭ビール会社の丸三麦酒が建築した専用工場として竣工した。現在は一部が残されているだけだが、竣工当時は明治時代に建てられたレンガ建造物としては5指に入る規模だったという。

 この工場で生み出されたのが「カブトビール」。大きく「カブトビール」と書かれたタワーが名古屋駅前などに設置されるなど派手な宣伝もあって、一時はヱビスやサッポロなどと肩を並べるビールとなった。カブトビール誕生前に全国で販売されていたビールがいずれも大都市を基盤としていたのに対し、カブトビールは名古屋ではなく知多半島の付け根にある小都市・半田で造られていたのが興味深い。

 カブトビールを生み出した丸三麦酒は、中埜酢店(現・ミツカン)4代目中埜又右衛門が甥の盛田善平(後の敷島製パンの創業者)に要請して創業した。半田は江戸時代初めから醸造が盛んだったが、中埜酢店は江戸時代に寿司にぴったり合う酢を考えて江戸の街に運び、大反響を得て財をなした。本拠は当時も今も半田に置いている。

 盛田はビールを製造するにあたってドイツビールを基本とし、1880年(明治22年)「丸三ビール」と名付けた瓶ビール3000本を初出荷。評判を呼んで、専門工場を建設することになり、今の赤レンガ建物が生まれた。

 ▽設計者は横浜赤レンガ倉庫と同じ人

 実際に残された建物の外観を見て、中に入ると、どこかで見たような既視感を覚える。それもそのはず、設計(実施設計)は横浜の赤レンガ倉庫の設計者と同じ、明治の3大設計者といわれた妻木頼黄(つまき・よりなか)だったのだ。

妻木は日清戦争下の1894年(明治27年)大本営の置かれた広島で臨時議院(広島臨時仮議事堂)を短期間で建設させ叙勲を受けるとともに、高名になった。設計した主な建造物で残っているものは、旧日本勧業銀行本店(1899年、千葉市美浜区、現千葉トヨペット)、旧横浜正金銀行本店(1904年、横浜市、現神奈川県立博物館)、醸造試験場(1904年、東京都北区、現酒類総合研究所東京事務所)、旧横浜新港埠頭倉庫(1911年、横浜市、現横浜赤レンガ倉庫)、日本橋(1911年)、旧山口県庁舎(1914年、山口市、現山口県政資料館)など。よく見ると、半田赤レンガ建物が竣工したのは1898年(明治31年)だから、横浜赤レンガ倉庫より13年も古い。逆に言えば、妻木が設計して現在重要文化財などになっている建物群は半田から始まっていたことになる。

 現在残っている建物は「創建時主棟」「ハーフティンバー棟」「貯蔵倉庫」の3つで、主棟は発酵室や貯蔵庫などがあって一部5階建ての建物。貯蔵倉庫は主棟とあわせるように建っている。珍しいのが「ハーフティンバー棟」で、木骨レンガ造りの平屋建て。施工は清水組(現清水建設)が行った。実はこのビール工場の基礎設計は妻木ではなく、ドイツのゲルマニア機械製作所。妻木は実施設計だった。ドイツ風のビールを醸造するために、丸三麦酒はドイツから機械技師と醸造技師を迎えていた。その技師が住む住居も工場の一角にあったという。

▽復刻されたカブトビール

 中埜又右衛門と盛田善平が創立した丸三麦酒は半田工場からのビール製造にあたって銘柄を「加武登麦酒(カブトビール)」と名付けた。当時、日本ではヱビスビール(東京都)、キリンビール(横浜市)、サッポロビール(札幌市)、アサヒビール(大阪市)という大都市をバックにした4大メーカーがしのぎを削っていたが、カブトビールは1900年(明治33年)のパリ万国博で金牌を受賞するなど評判を呼び、一時は東海地方で最大のシェアを誇ったという。

 その後、明治の鉄道王で東武鉄道のオーナー根津嘉一郎に譲渡されるなど変遷を辿り、第二次世界大戦(太平洋戦争)最中の1943年(昭和18年)企業整備令の適用で工場が閉鎖され、カブトビールの製造は終了した。

 その後、工場は中島飛行機製作所の衣糧倉庫となったことで、大戦末期の1945年(昭和20年)7月米戦闘機の機銃掃射を受けた。建物は破壊を免れたが、機銃掃射跡は今も貯蔵倉庫の壁面に残っている。

半田赤レンガ建物は所有が半田市に移された後、耐震補強工事などが行われ、2015年(平成27年)から公開されている。常設展示室や企画展示室などの他、復刻したカブトビールなどを販売しているショップや、カフェ「ブリック・ショップ」などがあり、カフェではランチなども提供しているほか、復刻カブトビールも飲ませる。復刻したカブトビールは色が濃くアルコール度数も7%ある黒ビールに似た味わいの「明治カブトビール」と、ドイツビールらしさを活かしたピルスナー系の「大正カブトビール」(アルコール度数5%)の2種類が販売されており、カフェでは両者の「飲み比べ」もできる。

(2018/10/06)