「啄木鳥」 惨事便乗型の北海道地震「対策」(上) 無策が原因? ショック戦術が産業を打撃

ショック・ドクトリンという言葉がある。カナダ生まれの米ジャーナリスト・作家のナオミ・クライン氏の命名によるもので、2007年に著した同名の著作では「惨事便乗型資本主義の正体を暴く」とのサブタイトルが付けられ、惨事便乗型資本主義あるいは惨事便乗型政治が、日本では2011年の東日本大震災以降大きなキーワードになってきた。

クライン氏によると「ショック・ドクトリンとは、戦争やクーデター、テロ攻撃、市場の暴落あるいは自然災害といった大惨事に襲われた後、人々がショック状態に陥ったことにつけこんで、大企業に有利な過激な経済改革–しばしば「ショック療法」と呼ばれる–を強行する手法のことである」(近著「NOでは足りない」より)。

同書は主にトランプ米大統領の政策を論じたもので、トランプについては次のように評価している。「トランプはある意味では型破りではあるものの、彼が用いているショック戦術は、これまで他国が危機を口実に急激な変革を押しつけられた際に見受けられたシナリオに沿ったものだ」(同)

9月6日に発生した北海道大地震への対応と北海道電力の全道停電からの流れを見ていると、安倍政権もトランプ政権と同じように、「危機を口実に急激な変革を押し」つけるべく、必要以上に国民にショックを与え、政権しいては安倍晋三に従うよう求めていると疑わざるを得ない。ちょうど自民党総裁選挙の最中に2日おいて発生した台風21号被害と北海道地震への対応を見ると、その思いが強い。

▽不明なブラックアウトまでの経緯

 ここでは北海道地震と全道停電(ブラックアウト)についてみてみる。地震発生は9月6日午前3時7分。厚真町を震度7の猛烈な地震が襲ったほか、各地で震度6強の地震を観測。震源地に近い厚真町の沿岸部にある北電苫東厚真火力発電所2号機と4号機(計135万キロワットの供給力)が緊急停止した。これを受けて道内は同8分過ぎから広範囲に停電。全域停電の「ブラックアウト」となるが、一斉ではなかった。最終的に全道停電は同25分、苫東厚真火力1号機(出力35万キロワット)が停止(3号機は停止中)したのを受けてと発表されているが、北電の真弓明彦社長は地震から1週間過ぎた14日の記者会見でも停電の経緯について「検証中」として説明を拒んでいるという。

 しかし北海道新聞は社長会見前日の13日付け朝刊で、『全道停電、緊迫の18分間  北本連系は一時機能 厚真1号機の停止致命的』とする検証記事を掲載。道内各地の病院に設置された自家発電装置の記録を分析し、停電は一律ではなく複雑な動きを取ったことを明らかにしている。ちなみに北本連係(線)とは本州から緊急時に電力を供給する電力線だ。記事によると25分になってから停電したのは札幌や旭川の病院。また地震後停電した病院でも釧路では一時復旧したとの記録がある。地震当時の電力需要を北電は310万キロワットとしているので、この時点で145万キロワットは苫東厚真以外の発電所で作られていたことが分かる。

 なおかつ重要なのは本州と北海道を結ぶ「北本(きたほん)連系線」が緊急起動し、同11分に最大量の60万キロワットが本州から北海道へ送られた。この時点で計算上は苫東厚真1号機の35万キロワットと合わせて240万キロワットの電力供給があったことになる。問題はなぜこの時点で、変電所ごとに遮断するなどの手段で地域を分散して被害を全道に拡大させない送電が取れなかったのか、あるいは取らなかったのか。

同紙14日付『道内全域停電なぜ起きた』によると、北本連系線は直流で電流を流しており、交流を直流に、直流を交流に変換する設備が両端にあり、北海道側の「函館変換所」が停電で動かなくなったため、送電できなくなったと説明しているという。しかし、この説明は苦しい。北本連系線を緊急起動する事態というのは、こうした大停電を予測し、影響を少しでも和らげるためではないのか。

▽傷癒えぬ安倍政権のショック戦術

 こうした状況を踏まえたのか、踏まえなかったのか分からないが、安倍政権は地震直後から「計画停電」を言い出している。普通なら苫東厚真火力が地震で損傷したことや全道停電の状況などは北電や道庁が発表するべきものだが、世耕弘成経産相は地震直後の6日に「数時間以内に電力復旧のめどを立てる」と発言した直後に、「復旧は1週間以上かかる」と述べ、計画停電計画を明らかにした。苫東厚真の修理に時間がかかるとして、計画停電の動きはさらに加速。計画停電案に加え、「復旧が11月以降」と後退した後は「2割節電」を叫んでいた。

  この経産相主導の動きは、犠牲者数をわざわざテレビで発表する安倍晋三首相とシンクロしたものだ。通常なら警察や行政が発表する犠牲者数を首相があえて行う必要はない。現に北海道地震の2日前に各地を襲った台風21号や、7月の西日本豪雨では犠牲者の数をNHKテレビの前で話していない。通常ならしないことを無理矢理やったせいか、犠牲者数を間違え、後で訂正するという羽目になった。

 産業活動や市民活動に大きな影響を与える「計画停電」案。広く国民にショックを与える犠牲者数の大々的な発表。いずれもナオミ・クライン氏が指摘する「ショック戦術」そのものだ。しかし14日に記者会見した北電の真弓社長は「土日や平日の節電要請時間以外の時間帯は、供給力に余裕があるので節電を意識せずに普段通り電気を利用してもらえる」と述べた(15日付道新)。さらに19日には苫東厚真火力1号機(出力35万キロワット)が配管修理を終え再稼働したとして節電要請を解除した。

 地震後、96万人を超す旅行のキャンセルが出るなど、観光に大きく依存している北海道経済への影響を考慮してとのことと思われるが、いったん大声で宣伝したことは取り返しがつかない。特に海外からの観光客が地震前のレベルに戻るには、相当な説明が必要だろうが、「ショック戦術」の傷はなかなか癒えないと思われる。

(続く)