ウソとデマがまかり通る世界になったのか?   新年から民主主義がひっくり返される予感

 不安な年明けを迎えた。今年がどんな年になるのか? 不安をかき立てる一つは言うまでもなく、米国の次期大統領ドナルド・トランプの動きだ。大統領になって国民に未来を指し示すのではなく、大統領就任前からツイッターという一方的な表現手段で「敵」を執拗に攻撃している。日本でも数年前から、戦後続いてきた一応の民主主義を根こそぎひっくり返そうとする安倍晋三政権の動きが続いている。間もなく平成の治安維持法というべき「共謀罪」を国会に提出する構えで、最終的には強行採決を狙っているようだ。不思議なことに、不安が沸き起これば起こるほど目を背け、つまらない馬鹿話に興じようとする国民の性は戦前も今も変わらない。

 

▽ウソの中の「本音」

  今年の年賀状に次のように書いた。

 「英オックスフォード辞書が昨年選んだ時の言葉は『ポスト真実』でした。『客観

 的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況』を指した言葉

 だそうです。日本ではあまり使われていませんが、逆に言えば日本は『ポスト真実』

 の先進国かもしれません。安倍政権になってから大手メディアは政権の『アンダー・

 ザ・コントロール』にあり、心あるキャスターはテレビから姿を消しました。

  怖いのは『感情的な訴え』が繰り返され、真実よりも情動、ウソやデマが大手を振

 って闊歩する時代に、世界がなっていることです。反知性主義と同調圧力が世の中を

 席巻する後に、聞こえてくるのは間違いなく軍靴の響きです。報道の自由度で世界の

 73位に転落した日本、再び戦禍に巻き込まれないための叡智があるのか、心配です」

  同様の文面を元旦のフェイスブックにも掲載したが、年が明け「ポスト真実」という言葉があちこちで聞こえるようになった。米大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏の様々な言動、特にツイッターでのみ発信される「根拠」や「理由」を示さない一方的な主張に対する恐れが出ているのだろうか。

 辞書を編纂している英オックスフォード大学出版局によると「ポスト真実」という言葉自体はかなり前から登場していた。しかし登場の頻度は欧州連合(EU)からの離脱を諮った英国の国民投票で極端なピークに達し、その後10月になって米大統領選挙で再びピークとなったという。

  名古屋大学大学院の日比嘉高準教授(文学研究科)は昨年11月、「ポスト真実」が今年の言葉に選出された後、自身のブログ「日比嘉高研究室」で「どうして嘘つきがまかり通るのかー「ポスト真実の政治」の時代にどう向き合うか」と題するコラムを掲載。その中で、次のように指摘している。

  所得格差が拡大し、鬱屈した不満が蓄積。本来力を発揮するべきリベラルな政党は力を失っており、代わりにそのはけ口が排外主義的な主張や感情に見いだされており、その風潮を吸い上げた与党およびそれに近い主張の政党が、力を得ている時代。ありもしない「脅威」や「危機」や「特権」が主張され、その誤りが指摘されているにもかかわらず、流布して力を持っていき、排外的な行動を惹起したり、現政権の軍事的積極主義に拍車をかけたりしている。

  では、どうしてウソがまかり通っていくのか。

  誤った事実の支持者は、その「事実」が本当に事実であるかどうかの検証を怠る。不都合な事実に目を背けようとする。背景にネット社会がある。注目したいのは、彼らの「嘘」がしばしば人々の「本音」と結びつけて語られることだ。不平や不満を持つ層の「本音」をすくい上げる。ウソと「本音」が結びついているので流布する。というのが日比准教授の説明だ。

  嘘をまかり通す典型例はドナルド・トランプだろう。トランプが演説やツイッターで撒き散らした事実に基づかない情報やあからさまなウソは「フェイクニュース」と呼ばれた。しかし結果的に大統領選挙最後のヶ月間のフェイスブック上のねつ造記事の選挙報道の方が、主要メディアの報道よりも支持を得た。ねつ造記事上位20のうち17が「親トランプ」「反クリントン」だったという。

  トランプが掘り起こしたのは「アメリカ・ファースト」という名の「白人ナショナリズム」だ。公民権運動のころから根強くあったが、1970年代から90年代にかけては全体的な経済成長にあって大きな政治課題にならなかった。しかし行き着くところまで行き着いた資本主義の結果、1%の超富裕層とその他に分断。貧しい人たちがより貧しい人々を攻撃するという、典型的なファシズムの様相が出てきており、黒人やヒスパニック、有色人種、ムスリムなどマイノリティに対するあからさまな攻撃が始まっている。

  米タイム誌は今年の顔にトランプを選出、「united state」(合州国)ではなく

 devided state」(分断国)の大統領とのタイトルを付けたが、見事にトランプの時代を表していると思う。そしてオバマ大統領が最後の演説で懸念したように「分断」が今年の流行語になるかもしれない。

 

▽窒息状態の日本メディア

  しかし大手メディアが健全な反応を示している米国はまだ救いがあるといえそうだ。

  東京新聞のコラム「ネットで何が…」で評者のニュースサイト編集者、中川淳一郎さんは政治家がツイッターなどネットでの「おちょくりやデマを政治家が鵜呑みにして、ツイートしている」現状を厳しく批判している。ウソネタで有名なネットメディアの情報を鵜呑みにして記事を書いた「日本のこころを大切にする党」の候補者、ネットのガセネタを真に受けた片山さつき議員や菅原一秀議員など。いずれも自民党やその「衛星」のような党であることが特徴だ。健康食品の通販会社がスポンサーになってネットで配信している「女性向けニュース」は内容がウソやデマで固められているという批判があるにも関わらず地上波に進出するという。

  ただ、こうした、いかにもフェイクと分かるようなところで、ウソやデマが飛び交っているだけなら、良心的なメディアによる問題化は可能だろう。しかし日本は残念ながら年賀状に書いたように「ポスト真実」の先進国になっている。

  「国境なき記者団」は日本の報道の自由度を73位と規定しているが、こうした状況についてTBSNews23アンカーマンを追われた元毎日新聞主幹の岸井成格氏は昨年末、さいたま市で開催された埼玉弁護士会主催の講演会で「良心的なジャーナリストは非常に息苦しくなっている。窒息状況だ」と心情を吐露した。

  岸井氏によると、政府はメディアに圧力をかけたというあからさまな証拠を残さない、極めて巧妙な揺さぶり方を執拗に続け、メディアを分断。それが功を奏しているという。おかしいと思っても、連携して抗議運動がしにくくなっており、権力の暴走を許す結果となっている、と指摘する。

  テレビ朝日「報道ステーション」の降板直前「I am not ABE」と書いたフリップを掲げて有名になった元経済産業省官僚の古賀茂明さんは、定期的に大手新聞、通信、テレビ各社の 論説委員や各社トップを招いて飲み食いして有名な安倍首相よりも、菅義偉官房長官の方が「会食」の件数は圧倒的に多いと指摘する。

  有力な(テレビ)コメンテーター、「有識者」を呼んで会食し、審議会の委員になってくれなどと働きかけ、批判者を次々と転向させているという。民主党のブレーンだった学者やコメンテーターが次々と転向。テレビや新聞、雑誌で安倍政権を礼賛。メディアは自粛し、問題提起すら出来なくなっていると批判している。

 

▽救いのある韓国、抵抗しない日本

  お隣の韓国も長い間、似たようなものだったらしい。朴槿恵大統領周辺の一連のスキャンダルも抜いたのはケーブルテレビであり、大手の新聞、テレビは朴大統領にひれ伏すような状況だったといわれる。

  反朴集会が始まったころから何度も足を運んでいる、フリージャーナリストの田中龍作さんによると、昨年11月頃デモや大集会で必ず歌われている歌の3番には「朝鮮日報は醜悪な(朴槿恵の)共犯者」という歌詞があり、会場で皆が歌っているという。また集会主催者が設けた現地のメディアセンターには「青瓦台の記者は朴槿恵に質問しろ」と書いた横断幕が掲げられていたとのことだ。

  100人を超す高校生から老人までの国民が見せている怒りは、朴槿恵体制だけでなく、それを可としてきたマスコミ、国会議員たちにも向けられている。その分、日本に比べて救いがあるといえそうだ。一方の日本。「チェルノブイリの祈り」でノーベル文学賞を受賞したベラルーシのスベトラーナ・アレクシエービッチさんは来日後の講演で「日本には抵抗の文化がない」と嘆いた。

  昨年まで年間、年賀状に故忌野清志郎の歌詞を引用して「誰にも言えないことばかりじゃ、空はまた暗くなる」と書いたが、日本の空は安倍政権誕生以来暗くなり続けているのが現状だ。2017111日)