「津波と防潮堤」  津波避難、「てんでんこ」の意味を理解しない報道

先人の教えを学ばない高度成長期の考えでいいのか  

 各種メディアで東日本大震災特集が始まったが、35日朝のNHKテレビ「週刊ニュース深読み」の特集「震災5年・命を守る」コーナー、巨大災害からの避難という課題に対する感覚がおかしいのではないか。

 

番組は大震災の津波被害に焦点を当て、片田敬孝群馬大学大学院広域首都圏防災研究センター長と佐藤翔輔・東北大学災害科学国際研究所助教の2人の専門家が、ゲストの2人のタレントを交え、津波から命を守る考え方を紹介する。「徒歩が原則だが、災害弱者に対応した車避難も」「防災隣組」などという論法が次々登場する。皆、東日本大震災の教訓らしい。

 

しかし、どの地域の視聴者に対して言っているのか。東北の太平洋沿岸部だけなのか。全国各地の沿岸地帯、特に今後起こる恐れが強いという南海トラフ地震地域の人たちに話していることなのか。極めてあいまいだった。片田センター長は「釜石の奇跡」とされる小学校児童の集団避難をかねてからアドバイスしていたことで有名になった学者だ。大震災後、各地で「釜石の奇跡」を基にした講義などを行っているらしい。

 

▽東海地震でも避難可能時間は5分以内

そこから説き起こしているらしいが、特に「車避難」などは東北、特に三陸での地震津波にだけ通用することではないのか。静岡から西は南海トラフ地震津波だけでなく、L1と認定されている東海地震でも地震発生から10分ぐらいで津波の第一波が押し寄せてくると予測されている。地震発生から5分くらいは動けないとみられるので、実質避難時間は5分以内と想定、避難訓練では5分以内の避難完了を目指している。

 

地震が収まった直後、ガレージに行き、車のエンジンをかけ、スタートするまでに5分ぐらいすぐに経ってしまう。車避難というのは東日本大震災当時の東北のように、地震発生から津波到達まで20分以上の余裕がある場合ぐらいだろう。

 

5分というのは極めて限られた時間だ。NHKの番組では「防災隣組」なるものも提唱されていた。隣近所の付き合いが大切ということ自体は反対ではない。しかし近所の自力で避難できないお年寄りや障害者を緊急時に助け出すことはどのくらい可能なのだろうか。東日本大震災では254人の消防団員が犠牲となった。このうちのかなりの団員が救援活動で命を落としたとみられている。5分では自分だけの避難で精一杯なのに、近隣を見て回り「まとまって逃げる」ということが、いかに非現実的か、防災の専門家と称する教授には分からないらしい。

 

何より東北各地では巨大防潮堤は大変な勢いで造られているが、避難路の整備は遅れている。行政はどこも「鋭意取り組んでいます」と称しているが、歩いて逃げる避難路にせよ車が走れる避難道にせよ、進んでいるという話はあまり聞かない。「災害弱者に限って」の車避難も防災隣組による徒歩避難も、避難路が整備されて初めて成り立つ。

 

▽生き残りのための「てんでんこ」

今回のNHK「ニュース深読み」では、「津波てんでんこ」という言葉、その意味を考えると言うことが全くなかった。この「てんでんこ」という言葉の意味について、岩手県の地元紙「岩手日報」は今年126日付けの紙面で、民俗学者である川島秀一・東北大学災害科学国際研究所教授の話を掲載している。川島教授によると「てんでんこ」とは各自勝手に逃げるというのではなく、「同じ方向、目標を向いてバラバラに」という意味。三陸の漁師には古くから「親子、兄弟同じ船に乗るな」という言い伝えがあったが、これも同じ目標に向かって生き残るための教訓という。

 

岩手県の太平洋沿岸各地では明治三陸地震津波などの教訓を残す石碑が各地に建てられていたが、ほとんどの住民は無視してしまった。これについても川島教授は「石碑に書かれている言葉の背景にある生活や文化をみないと本当の意味は分からない」と、同紙で語っている。

 

わずか5分間の猶予時間でどう避難するか。静岡県では震災後、毎年約10万人が参加して5分以内に避難場所に逃げるという実践的な避難訓練を行っている。残念ながらNHKの「ニュース深読み」は「自助」「共助」を強調しておきながら、一部の「成功体験」に頼り、先人に学ぶという意味を理解していない「浅読み」だったと言わざるを得ない。

201639日)

 

  各種メディアで東日本大震災特集が始まったが、35日朝のNHKテレビ「週刊ニュース深読み」の特集「震災5年・命を守る」コーナー、巨大災害からの避難という課題に対する感覚がおかしいのではないか。

 

番組は大震災の津波被害に焦点を当て、片田敬孝群馬大学大学院広域首都圏防災研究センター長と佐藤翔輔・東北大学災害科学国際研究所助教の2人の専門家が、ゲストの2人のタレントを交え、津波から命を守る考え方を紹介する。「徒歩が原則だが、災害弱者に対応した車避難も」「防災隣組」などという論法が次々登場する。皆、東日本大震災の教訓らしい。

 

しかし、どの地域の視聴者に対して言っているのか。東北の太平洋沿岸部だけなのか。全国各地の沿岸地帯、特に今後起こる恐れが強いという南海トラフ地震地域の人たちに話していることなのか。極めてあいまいだった。片田センター長は「釜石の奇跡」とされる小学校児童の集団避難をかねてからアドバイスしていたことで有名になった学者だ。大震災後、各地で「釜石の奇跡」を基にした講義などを行っているらしい。

 

▽東海地震でも避難可能時間は5分以内

そこから説き起こしているらしいが、特に「車避難」などは東北、特に三陸での地震津波にだけ通用することではないのか。静岡から西は南海トラフ地震津波だけでなく、L1と認定されている東海地震でも地震発生から10分ぐらいで津波の第一波が押し寄せてくると予測されている。地震発生から5分くらいは動けないとみられるので、実質避難時間は5分以内と想定、避難訓練では5分以内の避難完了を目指している。

 

地震が収まった直後、ガレージに行き、車のエンジンをかけ、スタートするまでに5分ぐらいすぐに経ってしまう。車避難というのは東日本大震災当時の東北のように、地震発生から津波到達まで20分以上の余裕がある場合ぐらいだろう。

 

5分というのは極めて限られた時間だ。NHKの番組では「防災隣組」なるものも提唱されていた。隣近所の付き合いが大切ということ自体は反対ではない。しかし近所の自力で避難できないお年寄りや障害者を緊急時に助け出すことはどのくらい可能なのだろうか。東日本大震災では254人の消防団員が犠牲となった。このうちのかなりの団員が救援活動で命を落としたとみられている。5分では自分だけの避難で精一杯なのに、近隣を見て回り「まとまって逃げる」ということが、いかに非現実的か、防災の専門家と称する教授には分からないらしい。

 

何より東北各地では巨大防潮堤は大変な勢いで造られているが、避難路の整備は遅れている。行政はどこも「鋭意取り組んでいます」と称しているが、歩いて逃げる避難路にせよ車が走れる避難道にせよ、進んでいるという話はあまり聞かない。「災害弱者に限って」の車避難も防災隣組による徒歩避難も、避難路が整備されて初めて成り立つ。

 

▽生き残りのための「てんでんこ」

今回のNHK「ニュース深読み」では、「津波てんでんこ」という言葉、その意味を考えると言うことが全くなかった。この「てんでんこ」という言葉の意味について、岩手県の地元紙「岩手日報」は今年126日付けの紙面で、民俗学者である川島秀一・東北大学災害科学国際研究所教授の話を掲載している。川島教授によると「てんでんこ」とは各自勝手に逃げるというのではなく、「同じ方向、目標を向いてバラバラに」という意味。三陸の漁師には古くから「親子、兄弟同じ船に乗るな」という言い伝えがあったが、これも同じ目標に向かって生き残るための教訓という。

 

岩手県の太平洋沿岸各地では明治三陸地震津波などの教訓を残す石碑が各地に建てられていたが、ほとんどの住民は無視してしまった。これについても川島教授は「石碑に書かれている言葉の背景にある生活や文化をみないと本当の意味は分からない」と、同紙で語っている。

 

わずか5分間の猶予時間でどう避難するか。静岡県では震災後、毎年約10万人が参加して5分以内に避難場所に逃げるという実践的な避難訓練を行っている。残念ながらNHKの「ニュース深読み」は「自助」「共助」を強調しておきながら、一部の「成功体験」に頼り、先人に学ぶという意味を理解していない「浅読み」だったと言わざるを得ない。

201639日)