北朝鮮の核実験にスピーディを利用 原発事故避難には使わないのに「悪乗り」?

 北朝鮮が「水爆実験に成功」と緊急発表した16日、いつもは後手に回っている日本政府はここぞとばかり大騒ぎを始めた。その中で驚いたのは原子力規制委員会の姿勢だ。

同日のテレビには放射性物質の汚染予測地図が映り、よく聞いていなかった人は、予測値ではなく実測値と勘違いし、大量放射性物質が北朝鮮から日本に流れてきていると早とちりした人がいた可能性がある。

 さらに驚いたのは、この予測地図は緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI=スピーディ)で作られたということだ。スピーディは2011312日から15日にかけて連続して水蒸気爆発を起こした東電福島第一原発事故で問題になり、まだ覚えている人も少なくない。事故からしばらく経って確認すると、当初からかなり正確に放射能の流れを予測していた。このデータが当時明らかになっていれば、少なくとも福島県飯舘村や川俣町など原発から30キロ圏外の大多数の住民は不必要な被ばくをせずに済んだ。

 しかし当時の原子力安全委員会は、原発事故によって入力されるデータに不備があり、間違った情報を与えるとして利用せず、原子力ムラは「スピーディは使えない」という世論操作を行ってきた。こうした「ムラ」の力で、原子力規制委員会は201410月、避難には使わないという方針を決めた。

 

 それが北朝鮮の核実験では北朝鮮の領域にモニタリングポストでもあるかのように、堂々と使用。6日のTBSニュースは「『水爆』実験で“放出の場合”、放射性物質の拡散予測を公表」とのタイトルでキセノン133の空気中濃度の拡散予測図を報じた。テレビ報道で見たり、新聞を読んだ人達からは早速、原子力規制委員会への怒りがフェイスブックやツイッターなどのSNSで飛び交った。

 

 原子力規制委員会がスピーディを使わないとした201410月8日の文書を再確認しよう。その中で、規制委は原発事故の避難計画には使わない理由として「いつ、どの程度の放出があるのか等を把握すること、および気象予測の持つ不確かさを排除することは不可能」で、スピーディによってかえって「被ばくのリスクを高めると判断」したという。そして避難計画は緊急モニタリングの実測値(つまり実際に放射性物質をカウントした後)で定めるという方針に変えた。この方針に対して、例えば新潟県の泉田裕彦知事はツイッターなどで「住民は被ばくを不安に思っている。実測値での避難は、被ばくしてからの避難を意味する。規制委は任務違背もしくは無能」と批判してきた。泉田知事が批判するように、少なくともスピーディの当初計画にあった「6時間後の予測値」が出れば、不必要な被爆は少なくなる。

 

 今回のように北朝鮮の核実験の規模が不明で、地下核実験上周辺にモニタリングポストがないにもかかわらず予測図を公表できるなら、周辺に幾つものモニタリングポストがあり気象条件なども精密に予測している日本で、再稼働したり、今後再稼働する原発の避難計画に組み入れるのは北朝鮮の核実験より容易いはず。今回、規制委はどの程度の放出があるか、核実験場付近の精密な気象予測もわからないうちに作成したのだから。

 

 これは原子力規制委員会の「悪乗り」というものではないのだろう。安倍首相や菅官房長官の強い指示が背景にあるのではないか。しかし、残念ながら日本の大手メディアからは、住民の側に立った意見や批判は見られない。さらに残念なのは大半の日本人が、北朝鮮の核実験には怒りを示しているのに、国内の原発事故に無関心であることだ。今年の年頭ミサでフランシスコ・ローマ法王は相次ぐテロを念頭に「平和の敵は戦争だけではない。無関心も敵だ」と呼びかけたという。メディアが沈黙し、国民が無関心であるのに乗じて、政府はまたとんでもないことを始めているのではないか。

201618日)