ウクライナの原発に電源喪失の恐れ?

送電網破壊による大規模停電で破局も

 

 今月11月22日にウクライナとロシアに「併合された」クリミア一帯で送電用鉄塔が爆破され一帯が停電するという事件が起きた。日本のマスコミは事件発生当時に伝えただけで、その後、190万人が影響を受けたという大規模停電がどうなったかという続報がほとんどない。しかしモスクワに拠点を置くニュース専門局「ロシア・トゥデイ(RT)」は最近、この事件でウクライナにある2つの原子力発電所が外部電源供給に支障を来す恐れがあるとインターネット・ニュース(英語版)で伝えた。クリミアを除く一帯に非常事態宣言などは出ていないようなので、破局的事故の懸念は杞憂に終わる可能性が高いと思われるが、注意は必要だろう。

 

「原発ホワイトアウト」が起こるか?

 送電塔破壊による原発のメルトダウンという事態は、2013年に「現役キャリア官僚の覆面作家」若杉洌氏が著した『原発ホワイトアウト』を想起させる。何者かが原発に通じる送電塔をいっせいに爆破。全外部電源喪失に陥った原発がメルトダウンし、さらに水素爆発などを起こして破滅的な災害をもたらすというストーリーだった。

 

 RTによると、最悪の場合メルトダウンを起こす恐れのある原発はウクライナ南部にある「ザポリージャ原発」と「南ウクライナ原発」。RTの記事では、両原発とも非常用ディーゼル発電機が稼働しており、直ちに全外部電源喪失という東電福島第一原発のような事態になる恐れはないという。しかしディーゼル発電機が稼働できるのは1週間といい、発電を続けるにはディーゼル燃料の補給が必要だ。

 

 送電塔爆破の結果、ロシアに併合されたクリミア一帯は停電が続いているらしいが、1週間経ってどうなったかというニュースは流れてこない。この間、住民はディーゼル発電機などの非常用電源で何とか生活を維持しているとのニュースはあったので、原発でも同じように燃料を補給している状態なのだろう。RTによると、作業員が現地に行ければ3、4日で修復は可能らしいが、修理が始まったという情報もない。

 

▼西側とは設計が異なるロシア型軽水炉

 原発は自分で発電しているのに、なぜ外部電源が必要なのか。原子炉を絶えず冷却し「空焚き」を防がなければならないからだ。核分裂による高熱を原子炉内で水に伝え、蒸気にしてタービンを回して発電する。タービンを回した蒸気は再び水に戻す(復水)。それをポンプで再び原子炉に送る。原発では様々な所に電気が使われているが、それらの電源は外部から取っている。自分たちで発電した電気を直接使わない理由の第一は、発電した電気を使うには電圧や電流を整流する必要があり、そのための施設や変電施設を原発内に作るよりも、外部の電源に頼ったほうが効率的なためだ。また原発は地震などの際に緊急停止させるが、外部からの電気の供給がなければ炉心は冷却できなくなる。日本の原発もウクライナの原発も同じ構造だ。

 

 2つの原発はいずれもロシア型加圧水型軽水炉(VVER)で、チェルノブイリ原発の黒鉛減速沸騰水型原子炉とは設計が異なる。日本や欧米の加圧水型と原理的には同じだが、旧型は①原子炉格納容器がない②緊急炉心冷却装置(ECCS)の性能が不十分-などと国際原子力機関(IAEA)などから指摘されている。2つの原発はともに旧型だ。なおかつザポリージャの場合、6基ある原子炉はいずれも出力が100万キロワットという超大型だ。福島第一原発のような破滅的な事態になれば、クリミアやウクライナだけでなく欧州一帯に深刻な被害を与えることは間違いない。

 

 RTが電源喪失の危険性を指摘した理由の一つは、肝心の「外部電源」供給施設が止まってしまったことだ。停電したエリアにある「ドニエプル」「ウグケゴルスク」という2つの火力発電所が緊急停止したという。緊急停止の理由は送電網破壊によるものなのか、あるいは別の破壊活動があったのかについて報じていないが、火力発電所に支障があるとする修復に時間がかかるのは間違いない。

 

▼政情不安な地域で原発事故が起きたら?

 現在のところロシアのRTだけがこのニュースを伝えているようなので、既に修復したのかどうか不明だが、原発事故の場合、本当のところがなかなか伝わってこない。チェルノブイリ事故の時も、旧ソ連政府は発生から数日経ってようやく認めた。その時には既に「死の灰」が広範囲に飛び散り、多くの人が被ばくした。今も深刻な汚染地域が残っている。

 

 国内ではほとんど報道されなくなったが、現在もウクライナとロシアはクリミアだけでなく、国境を接する辺りで衝突を続けている。一方で、ロシアはシリア国内のイスラム国(IS)を攻撃するとして大規模な空爆を開始したが、その最中、戦闘機がトルコ軍機に撃墜されるという事態も起きている。政情不安が一層高まっている中での送電網破壊。関係国は原発だけを単純に処理できるのかどうか。本来なら日本のメディアも、もっと深刻に捉えていい問題だ。

20151130日)