九州ブラックアウト? 小説が示す川内原発再稼働の未来  

 東電福島第1原発事故に触発されて書かれたとみられる2篇の小説が話題になった。「霞ヶ関の省庁(経済産業省?)に勤務するキャリア官僚(国家公務員1種試験合格)」という覆面作家、若杉烈氏が著した「原発ホワイトアウト」と「東京ブラックアウト」だ。作者は現役の高級官僚らしいとあって1作目のホワイトアウトはマスコミで大きく取り上げられ、昨年末に上梓した「ブラックアウト」を含めベストセラーになったと記憶している。

 なぜ、あらためて「ホワイトアウト」と「ブラックアウト」を想起したかというと、鹿児島県にある九州電力川内原発で、原子力規制委員会と裁判所のお墨付きを得た九電による燃料装填が7月10日までに終了。地元の南日本新聞によると九電は8月10日の再稼働起動を目指すとしており、「ポイント・オブ・ノーリターン」(元に戻れないポイント)が刻一刻と近づいているからだ。

 

▽紙上の避難計画?

 若杉氏の著作を簡単に紹介すると、「ホワイトアウト」と「ブラックアウト」の舞台は同じ「新崎県の新崎原発」が福島第1原発と同じように水蒸気爆発を起こし炉はメルトダウン、格納容器だけでなく原子炉建屋が爆発で吹き飛び、高濃度の放射能が四方に飛び散り破局を向かえるという事故。

 「ホワイトアウト」では原発周辺からの脱出で住民らが混乱したまま、新年を迎えているところで終わるが、「ブラックアウト」では東京圏、関東平野が「死の灰によってゴーストタウン」となり、3等国に成り下がった日本に世界中から核のゴミが持ち込まれる。それでも電力「モンスターシステム」は揺らぐことなく続いているという結末を迎える。そこに至る「新崎原発再稼働」までの官僚の動きと、作られる「避難計画」のいい加減さが描かれている。

 いい加減な「避難計画」作成を命じられた「内閣府原子力災害担当室副室長」の守下靖が「ブラックアウト」の主人公。守下は若杉氏と同じくキャリア官僚で、経産省から原子力規制庁に出向中。原子力防災課長との「兼務」で避難計画を担当する内閣府の副室長を命じられる。守下は原発深層事故が発生すれば、実際は避難など不可能なことを重々認識しながら、ペーパー上だけの避難計画を作成する。

 その過程で、地元の役人(県職員や立地市町村の担当職員)らが文句を言いに来る場面の、役人同士のやり取りが出色だ。上級職国家公務員だけが「官僚」であり、その他は「官吏」だという差別構造が、適当な避難計画をオーソライズさせ、国民をその中に落とし込んでしまう。たぶん日常的に発生しているであろう、このパターンが実際に川内原発再稼働でもいかんなく発揮されたのではなかったか。

 5月14日付け南日本新聞の企画「川内原発を考える」は、まさに「官僚」に従った「官吏」による避難計画が「適当」で「ペーパー上」のものであることを示した記事だ。記事はことし4月下旬、鹿児島県出水市高野という地区で開かれた住民説明会の様子を伝えたもので、2万2000人が暮らす原発から半径5キロ~30キロ圏の緊急防護措置準備区域(UPZ)の避難計画が実態から離れているのではないかとの指摘に対し、県側は「(避難の)シミュレーションを精査中」と答えたという。九電が「間もなく再稼働を」と大宣伝している時期にもかかわらず、である。ひょっとしたら、若杉氏が言っている「新崎県」とは鹿児島県のことではないだろうか。

 そもそも国が「福島原発事故後初めて」とうたった2013年10月11、12日の「原子力総合防災訓練」も、事故想定の甘さなど各界から様々な疑問が呈され、同年10月13日付けの毎日新聞によると原子力規制庁の金子修一原子力防災課長は「さらに厳しい想定での訓練は必要だ。今後計画する」と語ったという。この金子さんは小説に出てくる守下靖と同一人物ではないようだが、その後いろいろ調べても「さらに厳しい想定での訓練」をした様子はうかがえない。この毎日記事は「これを出発点に改善努力を進める」という田中俊一・原子力規制委員長の談話も伝えているが、どんな改善がなされたのかも不明だ。まさか今も「シミュレーションを精査中」ではないだろうが。

 

▽「防空法」に類似

 ことし3月、仙台市で開かれた国連防災世界会議のパブリック・フォーラム。脱原発を目指す首長会議主催の「原子力防災と自治体の役割~その教訓と課題」で、茨城県東海村の元村長、村上達也氏は「原発は人類の歴史の中にあってはいけない。避難計画は再稼働の前提であり、片道切符つくり。一生懸命作るのはアホ」と断じた。

 様々なシミュレーションを策定している環境経済研究所の上岡直見所長も、このフォーラムで「(国の)避難計画は民間人への対策は何も考えていない。原子力規制委の考え方は戦時中の『防空法』に類似している。被ばくが始まってからの避難など、実際は不可能」と切って捨てた。

 上岡氏が類似していると指摘する「防空法」。戦後70年目のことし、様々な戦争回顧の中で、空襲の犠牲者を増大させた要因の一つとしてクローズアップされた。どんなものか。「検証防空法~空襲下で禁じられた避難」(水島朝穗・大前治共著、法律文化社)によると、戦時中の“防空法制”によって避難は禁止され、お国のために命を捨てて消火せよと強制。徹底した情報統制と安全神話で、空襲は怖くないと宣伝された、という。避難者は「非国民」と糾弾され、怖くないはずの焼夷弾で多くの人が焼死した。

 確かに原発では避難を禁止してはいない。しかし実行不可能な避難計画というものは、避難できない状況を作り出すものだ。そして安全神話。再稼働をめぐって原子力規制委員会と原子力ムラによる安全神話が復活している。「川内原発稼働期間中、巨大噴火は起きない」などとする考え方など、安全神話以外の何ものでもない。

 上岡氏によると、東海村で起きたJCO事故の時、わずか354メートル避難するのに10時間かかった。さらに福島原発から20キロ圏内の福島県浪江町では全村避難まで100時間かかったという。

 地元の南日本新聞の世論調査によると、今年4月の調査で川内原発再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」が59.9%に達した。実は昨年の同じ時期でも59%台あったが、今回0.4ポイント上昇したという。しかし、こうした広範な市民の声は原発再稼働一直線の行政や電力会社、地元の利権関係者の耳には入らないのだろう。安倍首相や菅官房長官ではないが、「粛々」とノーリターン・ポイントに向かおうとしている。

 小泉純一郎元首相が繰り返し訴えているように、原発の再稼働は時限爆弾のスイッチを入れることになる。これだけ問題点が列挙されているので、時限爆弾が破裂しても当事者は「想定外」という手は使えないだろう。ただ、いつ起きるのか。誰も分からないのが、こ時限爆弾だ。

2015710日)