宇宙軍拡への「転換点」

政府は19日、内閣の宇宙開発戦略本部会合で宇宙基本計画を決定した。パリでフランスの風刺週刊紙が襲撃され、12人が死亡するという事件が起きた(日本時間7日夜)直後だっただけに、一般にはあまり話題になっていないが、見逃せない問題がある。会合で安倍首相は「(この新計画は)歴史的な転換点になるもの」と自賛したというのだ。ただ、何が転換点なのか。 メディア各社の報道を見る限り不明な点が多い。しかし宇宙軍拡と絡んでいるだけに、懸念すべき決定とみなさなければならない。

 各社の報道を見ると、「新計画は、安全保障面で、日米宇宙協力を強化すると明記」(産経)、「宇宙安全保障の確保を最重点課題に位置づける」(毎日)、「安全保障能力の強化に向け」(NHK)などの言葉が並んでおり、安全保障がキーワードとなっていることは間違いない。

 しかし「安全保障」という言葉は2008年に宇宙基本法が制定された時に「安全保障に資する」条項が盛り込まれている上、既にその時点でいわゆる偵察衛星(政府の造語では情報収集衛星)が打ち上げられている。「宇宙安全保障の確保」というだけでは、安倍首相も「歴史的な転換点」と胸を張ることはないと思われる。

 今回まとめられた基本計画は、宇宙安全保障だけでなく、商業面での国際競争力強化も強調されているので分かりにくいが、安保関係では「地上の位置情報を高い精度で測る『準天頂衛星』を現在の1基から4基に、軍事施設などの画像を収集する情報収集衛星も現在の4基を増やす」(NHK)という内容らしい。単に数を増やすというのなら「転換点」にならないので、外に出ていないものがあるに違いない。

 それを考えるためには、日本の宇宙開発の流れを見ておく必要がある。日本は東大航空宇宙研究所から文部科学省宇宙科学研究所につながる科学衛星主体の流れと、科学技術庁の特殊法人宇宙開発事業団の商業衛星開発の流れがあった。1969年、宇宙開発事業団の発足時に衆参両院は「宇宙開発は平和目的に限る」との決議を行い、2つの機関は共に平和目的に限った宇宙開発を進めてきた。

 流れが変わったのは1998年。北朝鮮がミサイルの打ち上げに成功したことによる。政府は偵察衛星の開発を急ぐとともに、航空宇宙技術研究所を含めた3機関を統合し、2003年独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)を発足させた。この時のJAXA法には「宇宙の平和利用に関する基本理念にのっとり」(第4条)との文言が入るなど、平和目的以外の開発研究ができないような仕組みになっていたが、2012年のJAXA法改正で宇宙基本法にあわせる形で「平和の目的に限り」という条文が削除された。この2012年は内閣に宇宙開発戦略本部が設置され、内閣府には宇宙政策委員会と宇宙戦略室が設けられた年だ。

 当時は民主党政権だったが、古川元久宇宙政策担当相は朝日新聞のインタビューに答えて「安全保障も宇宙開発利用の重要な目的としつつ、憲法の平和主義の理念にのっとって行われると明確にした方が、むやみやたらと拡大解釈されないためにも大事だ」と述べていた。流れからするとどうも、この「憲法の平和主義の理念」が本当のキーワードではないだろうか。

 今回の基本計画は宇宙政策委員会が約2カ月でまとめたものという。2012年の全面的な改定からまだ時間が経っていないにもかかわらず、短期間でまとめさせた理由は何か。言うまでもなく、昨年71日に閣議決定した「集団的自衛権の行使」容認が要因だろう。

 さらに日米両国政府は昨年108日、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)見直しの中間報告を発表した。この中間報告で「日米両政府は宇宙およびサイバー空間の安定および安全を強化する決意を共有する」として、「関連する宇宙アセットならびに各々のネットワークおよびシステムの抗たん性を確保するよう取り組む」「宇宙の安全かつ安定的な利用を妨げかねない行動や事象および宇宙における抗たん性を構築するための協力方法に関する情報共有を含む」などの文言が踊っている。

 今回の宇宙基本計画はまさに日米ガイドラインに沿って見直したものといえる。新ガイドラインは日本が海外で武力行使を可能にするための前提で、ガイドライン決定と各種国内法の改正が集団的自衛権行使の前に必要とされている。

 集団的自衛権と日米ガイドラインに沿って、どんな計画を持ち出してくるのか。小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げや、今年5月に宇宙に飛ぶ新宇宙飛行士が異様なほど話題になっているが、科学のベールをかぶった後ろで危険な「防衛協力」が進もうとしていることを忘れてはならない。