日本のモラルが問われる原子力協定承認

 日本とトルコおよびアラブ首長国連邦(UAE)との間の原子力協定が衆参両院で承認され、両国への原子力技術及び核物質の輸出が可能になった。東日本大震災と、それに伴う東電福島第一原発事故が起きてから初めての外国との原子力協定である。協定承認で直ちに原発技術や核物質が輸出されるわけではないが、安倍政権は巨額の国税を投入して輸出に邁進しようとしている。大半の国民がまだフクシマは収束していないと認識しているにもかかわらず、である。

 両国との原子力協定、特にトルコとの協定では重大な問題点がある。既に、いくつかはメディアでも取り上げられているが、安倍首相の「成長戦略」連呼にかき消されてしまっているようだ。しかし実際は成長のためではなく、破産しかかった原子力産業および原子力ムラ維持のためではないのかという疑念の方が強い。倫理的にも技術的にも多大な問題のある原子力輸出を許すのかどうか、日本のモラルが問われることになる。

▼協定に危険な条項

 今回の原子力協定承認を受けて、自民党の河野太郎議員、民主党の近藤昭一議員が共同代表となっている超党派の国会議員で作る「原発ゼロの会」が2014418日「役員」名で発表したコメントがある。要点は次の5点だ。

(1)福島第一原発事故を踏まえた安全確認用件が国際的にも未確立。

(2)原発輸出における機器等の安全確認体制が未整備。

(3)トルコにおいて、推進と規制の分離がなされていない。

(4)トルコにおける地質調査に信用性がない。

(5)核不拡散体制の担保がない。

 残念ながら全国紙を見る限り、原発ゼロの会のコメントを報じた社は見つからなかった。原子力協定が参議院本会議で採択される前の415日には、同外交防衛委員会で参考人を召致して陳述と質疑が行われた。当然ながら、この質疑も全く報道されなかったが、この席で陳述したNGO団体「環境・持続社会」研究センターのスタッフ、田辺有輝氏の主張と原発ゼロの会のコメントは似通っているので、田辺氏の意見陳述を参考に協定の問題点、特にトルコとの協定をみていこう。

 まずトルコ側の問題点。安倍首相の「トップセールス」で建設を勝ち取ったという原発予定地は黒海に面した観光地、シノップという市にある。ここに4基の原発を日仏連合で建設するという計画だが、地元の市長は原発建設に反対して当選した。トルコ全体でもフクシマ以降、原発へ反対意見が強まっており,ギャラップ調査では国民の68割が建設に反対しているが、シノップでは特に反対の声が強いという。

 トルコといえば有数な地震国であり、日本と並んで地震被害が多発している。それにもかかわらず全国的な耐震化対策は進んでおらず、過去の大地震では震災後、全国的に停電するなどインフラが数日間ストップしていた。

 福島第一原発事故を経た現在、通常ならこれだけでも建設をちゅうちょするところだが、さらに福島事故の悪化要因として顕著に表れた推進と規制のバランスが問題になっている。日本ではようやく原子力規制庁ができたが、トルコでは独立した規制組織はまだないという。

 こうした問題だけでも疑念を呼ぶが、トルコとの協定で特に問題となるのが、協定第8条だ。条文は次のようになっている。「この協定に基づいて移転された核物質及び回収され又は副産物として生産された核物質は、両締約国政府が書面により合意する場合に限り、トルコ共和国の管轄内において、濃縮し、又は再処理することができる」。つまり軍事利用に道を開くプルトニウムの再処理を認めたということだ。これまでのベトナムなどとの協定や、トルコと一緒に承認されたUAEとの協定では逆に禁止されているので、いかに突出しているか分かる。

 日本政府は国会答弁などで、トルコ側に(再処理を)許可しない旨伝達したとしているが、議員からの質問にもその記録は開示していない。8条を入れたのはトルコ側の要求であることは認めているが、特段の理由もなく一般論として要求などしない。将来必要になるというのなら、その時点で協定を改定すればいいのだから、再処理を行いたいとする事情があるはずだ。原発ゼロの会は核不拡散体制の担保がないと指摘しているが、日本は原子力産業の金儲けのために核拡散に応じてしまったのではないか。さらには、日本ではトラブル続きでできていない再処理をトルコでやろうとしているとすら疑わざるを得ない。

▼日本原電の救済策か?

 安倍政権は昨年の参議院選挙の大勝を受け、原発外交を加速してきた。原発輸出を成長戦略の柱と位置づけているからだ、などと読売新聞は社説で論じているが、本当にそうなのか。福島第一原発であれだけの事故を起こし、汚染水は依然として垂れ流し状態。大半の住民は避難生活を強いられたまま。メルトダウンした原子炉には近寄ることもできず、本当に事故原因が解明されたとは誰も断言できない状況だ。まっとうな神経の人なら「世界一の耐震技術」とは口が裂けても言えない。にもかかわらず原発輸出が、安倍首相の主張するように「福島原発事故の経験と教訓を世界と共有する」ことになるとしたら、少なくとも危なくない企業に輸出を扱わせるべきである。

 しかしながら原子力ムラの官僚と企業はとんでもない策謀を続けている。まず原発立地地点であるシノップでの地質調査。本来なら建設するトルコが主体的に行うはずだが、日本政府が112千万円を出資して、日本原電に委託した。この委託に至る経緯が疑惑だらけだ。問題点は今年46日毎日新聞がスクープして明るみに出た。同紙によると、経済産業省資源エネルギー庁が昨年6月、トルコでの調査を委託する企業を入札したが、この入札に日本原電しか受注できないような条件を付けていたという。しかも実施公表から締め切りまでわずか18日間で、他社は応募もできないように仕組まれていたという。

 この日本原電、敦賀市と東海村で原発を稼働しているが、敦賀2号は活断層上にある可能性が濃厚で廃炉の公算が強い。東海も地元および周辺自治体との関係が悪化、再稼働への道のりは遠い。3.11以来赤字が続き日本政策投資銀行などの特別融資でしのいでいるが、経営は厳しい。にもかかわらず、海外での「調査」は活発だ。2009年度から12年度にかけベトナムの原発関連調査で約285千万円が日本政府から支払われていた。政府は今年度予算でも13億円を「原子力海外建設人材育成委託事業」(地点不明)として計上している。地点や名目はその都度変わっても、委託を受けるのが毎度日本原電だけとしたら異様というしかない。

 少なくとも11億円の国税を掛けた調査がどんなものなのか、国民は知る権利がある。なぜなら、日本原電といえば敦賀原発の断層調査にあたり、規制庁幹部から事前に報告書を入手して問題になった企業だからだ。専門家が一致して活断層と認定しているにもかかわらず「違う」と言い張り、不正に報告書を入手した企業が海外ではきちんとした調査ができるのだろうか。原発ゼロの会も「著しく信用性に欠ける」と厳しく批判している。

▼安全確認もできないまま?

 原発ゼロの会は、輸出する機器の安全確認体制が未整備という点も、危険事項に上げている。これはどういうことか。やはり毎日新聞が昨年83日付朝刊ですっぱ抜いている。

 これまで国は原発関連機器の輸出前に、相手国の規制体制を調べる「安全確認」という手続きを行ってきたが、担当していた「原子力安全・保安院」がなくなり原子力規制委員会が発足した後、規制委側が「安全確認」は原発推進業務になるとして拒否しているという。この主張は当然のことだが、これを受け「安全確認」を行う調査機関は作られていない。

 1基数千億円もする原発建設で事業者側が現金をポンと出すことはほとんどない。特に新興国は一括で払えないことが多く、国際協力銀行(IBIC)が新興国に融資することになる。また支払いが滞った場合にメーカーが安全のためにかけるのが日本貿易保険(NEXI)。いずれの場合も、前提となるのが「安全確認」だった。

 いざとなった時の損害を誰が被り、誰が補うのか。最後に国民につけが回らないよう、輸出にあたって最低限の安全でも確認されなければならないが、毎日のスクープが出るまで全く明らかにせず、表沙汰になっても放置したままのようだ。

 海外展開での巨額補償は既に実際に事件になっている。三菱重工業が米カリフォルニア州のサンオノフレ原発に納入した蒸気発生器の配管破損で、同原発を持つ電力会社が同社を相手取って約4000億円の損害賠償請求を訴えたのだ。この原発は配管破損で廃炉となった。同様に、事故が起きた時に電力会社だけでなく、納入した機器メーカーにも賠償責任を負わせる法律はインドにもあり、今後増える可能性がある。

 その三菱重工業が今回のトルコでの原発建設の主役だ。シノップで計画している原発は同社とフランスの原子力事業者アレバの合弁会社「アメトア」が建設する予定。原子炉は両者が共同開発した「アメトア1」という出力100万キロワット級という。三菱の蒸気発生器配管破損がアメトア1にどう反映されるのか不明だが、損害賠償裁判が決着する前に事故の恐れが消えない原発を建設していいのかどうか、問われることになる。

▼将来、責任追及の恐れも

こうして並べるだけでも疑念が次々と出てくる。しかしながら、世間の関心は薄い。地方紙の社説を見ると、例えば愛媛新聞が原子力協定を「愚行」と切って捨てるなど批判的な声はある。しかし発行部数世界一を誇る読売新聞が社説で「官民連携で受注・輸出を計れ」と諸手を挙げて賛成していることもあり、「日本企業が儲かるならいいのでは」といった空気がまん延している。

 原子力事故が将来起きても外国でなら関係ないというのは、自分のところだけは嫌だというのと同じだ。自分のところさえよければという論理は、先の米国の損害賠償の例でも認められなくなってきている。

無関心が広がる中、小泉純一郎、細川護煕という元首相コンビが中心になって結成されるという「自然エネルギー推進会議」は原発輸出にも反対していくと伝えられた。原発ゼロの会も、協定が発効しても実際に原発輸出が実行されないよう取り組んでいく、としている。民主党にも早く分裂してもらい、まっとうな人に脱原発を明確にした組織作りを望みたいものだ。

 

(了)