突然舞い込んだ放射線の健康調査要請

被ばくの健康影響を否定するためとの疑いも

 

公益財団法人放射線影響協会なるところから、突然「放射線による健康への影響を明らかにするために、あなたの協力が必要です」と表紙に書かれた封書が親展で送られてきた。同協会が原子力規制庁から委託を受けて実施している調査だという。

中身は「原子力発電施設等で働いたことのあるみなさまへ」と題され、私の住所氏名が書かれた協力依頼の1枚紙。協会理事長(固有名詞はなし)名の「放射線疫学調査へのご協力のお願い」文1枚。原子力規制委員会、原子力規制庁長官官房放射線防護グループ 放射線防護企画課名の「原子力関連施設での勤務経験のある皆様」宛の協力お願い。さらに「放射線英学調査についてのご説明と調査へのご協力のお願い(あらまし)というA4版4ページのもの。それの「詳細説明資料」という「放射線疫学調査についてのご説明」A4版9ページ。「低線量放射線による健康への影響を明らかにする」というパンフレットのようなものが同封されている。

そして肝心の質問は1枚だけ。その前に「放射線疫学調査の対象者となることについての意思確認書」が入っている。その質問は専ら生活習慣に対するもの。第一は喫煙。ただし回答は「以前は吸っていた」と答えた人のみ。次が「飲酒」。「飲む」「以前は飲んでいた」と答えた人のみが回答する。3番目が「食生活」ときて4番目にようやく業務に対する質問になる。しかし質問事項は雇用企業を問うもの。最後にその他の項目の中に「ピロリ菌の感染経験」「肝炎ウイルスへの感染経験」「既往歴」などが入っている。それも「がん」は取って付けのように最後だ。

▽原子力発電施設等の勤務経験ないのに

私はここで記されている原子力発電施設等で働いた経験は全くない。パンフレットによると調査対象は「1990年(平成11年)3月末までに原子力発電施設等において放射線業務従事者として登録された男性約20万4千人」だから、そもそも調査の対象になるはずがない。

あり得ないはずなのだが、思い当たるとすれば、東京電力が福島第一原発で「シュラウドの交換」(※)をした時に、原子炉格納容器の中まで視察することになり放射線業務従事者手帳を作成したことぐらいだ。シュラウド交換作業は1997年から98年にかけて福島第一原発3号機で行われ、放射能を帯びたステンレスの容器などが運び出された後に内部に下りた。周りに一切触れないように注意して中に入ったので、結果は被ばく線量は検出限界値以下だったのでその旨記載されたが、放射線被ばくが問題になるとしたら、根拠はその時の従事者手帳をもとにしたという以外にない。手帳を持っている人を対象にしているのなら、調査事項の中に、被調査者の被ばく線量を聞く項目があるのが当然と思われるが、それらしき項目はない。

▽悪性腫瘍と死亡の因果関係示さず

一方で、パンフレットには「中央登録センターに登録された従事期間の被ばく線量の提供を受けました。1人あたりの被ばく線量の累積は平均13.8ミリシーベルトでした」としている。しかし13.8ミリシーベルトが危険なのかどうか、パンフレットはどういうレベルなのかを全く示していない。

その上で、住民票の写しにより生死の確認を行い、死亡が確認された方については人口動態調査死亡票との照合により死亡原因を確定したとある。その結果、「すべての死亡と被ばく線量の関連は認められませんでした」「放射線被ばくと関連が強いと言われている白血病(慢性リンバ性白血病を除く)に被ばく線量との関連は認められませんでした」とし、「これまでの調査では、低線量放射線被ばくが死亡率に影響を及ぼしているとはいえません」と断定している。

ここで低線量放射線被ばくと死亡の因果関係を否定した、人口動態調査死亡票。厚生労働省が毎年作成し発表しているものだが、死亡宣告した医師が書いた死因が各役所、保健所から厚生労働省に送られ、死亡票の根拠となる。あくまで医師の診断に基づくものだ。この死亡票をみると、ここ数十年「悪性新生物(つまり悪性腫瘍)」が死因のトップを占めている。どういう照合をしたのか分からないが、「すべての死亡と被ばく線量との関連は認められない」と断定するなら、調査分析結果を細かなデータまで含めて公表するべきだ。

▽被ばく線量の根拠もあいまい

一方13.8ミリシーベルトとする「登録された被ばく線量」の根拠は、手帳を持っている人全体の平均ということでしかない。調査票でも職種を問う欄に①事務、設計、研究②放射線管理、工程管理③運転・機器操作、試験・検査④保守、補修⑤福島第一原発における廃炉作業–という分類があり、少なくとも事務などの分野の従事者は、累積でも1ミリシーベルト以下だろう。さらに私のように、瞬間的に施設を訪問する人(電力会社幹部なども含まれるかもしれない)を含めると平均値はさらに下がる。低線量放射線被ばくを問題にするならば、もっとも被ばくしやすい定期検査や補修などの作業に従事している人を中心に線量を計算しなければ実態に合わないはずだ。

それにしても、綿密な調査をしたのなら、私が職業的な放射線業務従事者ではないことは分かるだろうに、調査票を送りつけてきた理由は分からない。そこまできちんと調べていないと言うのなら、被ばく線量の根拠が怪しくなる。1997年当時と現在では居住地が異なるのだが、そこは調べているのだろう。しっかりと送ってきた。それだけに目的は何か。不気味な限りだ。こうした点を踏まえると、調査票を送りつけてきたのは、質問の大部分を占めている喫煙や飲酒と結びつけたいのではないかと疑わざるを得ない。

従って、私は働いていなかったのだから調査に対する回答を行っていない。すると、あらためてハガキで「ご協力のお願い」が届いた。私の住所氏名の下には「意思確認調査番号」なるものが印刷されている。ここでも原子力規制委員会の委託事業と銘打っているが、平均値を下げるためだけの調査だったら、とても応じられない。

(※)東電福島第一原発のシュラウド交換 シュラウド(炉心槽)とは沸騰水型軽水炉(BWR)の原子炉圧力容器内で燃料集合体と制御棒などがある炉内中心部の周囲を覆っているステンレス製の円筒。BWRに特有のもので1990年にスイスの原発で最初に応力腐食によるひび割れが見つかり、その後日本や欧米のBWRでも多発。世界的に問題になった。東電は1997年から98年にかけて世界で初めて炉心シュラウドを全面的に交換する工事を行った。炉心構造物を全部取り出しシュラウドを取り除いた後は炉心空間の放射線量は低く、周囲の壁などに接触しないよう注意を払えば、外部の者も中に入ることができた。