東京電力福島第一原発「廃炉」のいかがわしさ

 

「浮き彫りになった疑惑を整理する」

 

 4基ある原子炉のうち3基が水素爆発し、3基で炉心が溶融した東京電力福島第一原発。政府は一貫して「廃炉」を進めるとし、現在も1日平均6500~7000人が「廃炉作業」に当たっていると説明している。そんな中、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が7月13日新たな「戦略プラン」を公表し、核燃料を建屋内に閉じ込める「石棺」方式について初めて言及した。福島県や地元自治体から反発を食らった廃炉支援機構は20日になって「石棺」の文言を削除した修正案を発表したが、その一方で東電は同じ20日地下水が原子炉施設に流れ込まないようにする凍土壁について「完全凍結は困難」と発表、当初の説明を覆した。こうした最近になって相次いで出ている事実は、あらためて政府のいう「廃炉」のいかがわしさを浮き彫りにしたと言える。

 

▽「石棺」表現に反発

  政府や東京電力がかねてから説明してきた、福島第一原発の廃炉とは①汚染水を処理②燃料の取り出し③原子炉建屋やタービン建屋など原子力施設の解体・片付け(廃止措置)の3点がセットになったものだ。特に最も難しい2つ目の「燃料の取り出し」を2021年頃から開始するとしている。最終的に廃止措置が終わる時期について40~50年後とするが未定の点が多い。

  一方「石棺」は旧ソ連チェルノブイリ原発事故で、爆発事故を起こした原子炉建屋をコンクリートですっぽり覆ったのと同じ手法だ。石棺の中では、溶けて固まった核燃料(燃料デブリ)が残ったまま。事故から30年経ってコンクリートの屋根や壁が老朽化して破損、デブリから放たれる高線量の放射線が外部に放出されているため「第2の石棺」で全体を覆う作業が進められている。チェルノブイリについては石棺で覆っても「廃炉」とされていない。

  廃炉支援機構の「石棺」言及に対し、地元の2新聞は大きく反応。例えば福島民報は14日付け朝刊1面中ほどに5段で「廃炉支援機構 第一原発『廃炉』に言及」との記事を掲載。2面には「帰還や復興に水を差す」として地元首長らの反応を掲載した。「あらゆる技術を駆使してデブリを取り出すのが当然」(伊沢史朗・双葉町長)などの声を示して、先に挙げた廃炉の第2項の実行を求めている。しかし一方では、そう簡単にいくとは考えていないようだ。

  同じ14日付けの福島民報2面。反発する首長の記事の隣には、「第一原発2号機溶融燃圧力容器底に残存か」という記事が掲載されている。「ミュー粒子を使った測定調査で、溶融した核燃料の大部分は格納容器まで抜け落ちず、圧力容器に残っていた」とする東電や高エネルギー加速器研究機構の調査結果の記事で、これまでの「デブリがどこまで抜け落ちたか分からない」という状態からは一歩前進だが、デブリ取り出しに生かせるほどの詳細が分かったわけではない。なおかつ、当初入っていた燃料は約100トンだったのに対し、デブリは倍の200トン前後とみられるなど問題点も増している。

  これまでの調査で、1号機ではデブリは圧力容器にはほとんど残っておらず、全量が格納容器から下に抜け落ちたとの判断になっている。3号機についてはまだ調査も始まっていない。こんな状態ではたして2021年頃から、デブリ取り出しが可能となるのだろうか。

 

▽自民元政務官も「凍土壁に怒り」

  廃炉には汚染水の対策も条件。原子炉の山側から、絶えず原子力施設に入ってくる地下水が最大の難点で、地下水が施設内の放射線物質に接触した汚染水が施設の外、特に海洋に流れ出ないような対策に多くの時間と費用を費やしてきている。汚染水はポンプで吸い上げ、敷地内に林立しているタンクに貯蔵されているが、既に敷地境界までタンクが立ち並び、近い将来には限界を迎える。

  この対策として東電が取ったのが「凍土遮水壁」(凍土壁)。いくつかの候補の中から「廃炉までの長期間水を遮断でき、メンテナンスもしやすい」として東電が採用した鹿島建設提案の方式で、1号機から4号機までの建屋の周囲に、1メートルごとに長さ30メートルの凍結管を1568本埋め、零下30度の冷媒を循環させ、凍結管の周囲の土を凍結させて壁を作るというもの。今年3月末から海側部分で凍結を開始したが、当初は期待通りに地中温度が下がらず、追加工事を行いながら稼働してきた。

  それでも6月1日現在の地下水くみ上げ量は平均321トンで5月平均から30トン程度少なくなっただけだ。さらに東電は7月20日「完全凍結は困難」と言い始めた。東電は「完全凍結でなくても問題ない」と釈明しているが、次々と言葉を変えているだけに信用度は低くなっている。さらに原子力規制委員会が求めている1~4号機内にこれまでたまっている汚染水約6万トンの処理についても具体的な回答はない。

  この凍土壁について怒りをぶつけたのが自民党の牧原秀樹衆院議員だ。牧原議員は自分のブログに「凍土壁に対する怒り」と題して、「久しぶりに猛烈に怒りを感じていることがある」と20日の東電の発表を批判した。牧原議員は第2次安倍内閣の環境政務官という立場で凍土壁について「実は非常に難しいにもかかわらず無責任に進められようとしていることを聞き、3役会議を始何度も担当者を問い詰め、中止するよう申し入れた」が、そのまま強行されたという。この凍土壁には国税が320億円も投入されているが、成功したとしても「凍土を続けるための電気代等は年間10億円もかかり、庶民の電気代として負荷される」と表明。その上で「最初の段階で、ドレインの凍土ですら失敗したのだから、真摯に反省すべきだった」と総括している。

  また「日本を元気にする会」の松田公太参院議員も同じ発表を受け、「凍土壁を採用する本当の理由は『技術的難易度が高く国が前面に立って取り組む必要がある』という大義名分を振りかざして、国からの財政措置を正当化し、国民の税金を使って東電の工事費負担を減らすためでもあった」とブログで表明している。

  これら政府及び東電の情報に詳しい自民党および保守系議員のブログからは、最初から凍土壁は汚染水対策にならないにもかかわらず進めてきたことが読み取れる。安倍首相は東京オリンピック誘致に際して有名な「アンダーコントロール」発言を行ったが、その頃既に凍土壁を中止せよという声が政府部内にあったのを強引に推し進めた責任は大きい。

 

▽東京五輪後、強引な幕引きか

 汚染水処理、溶融核燃料(デブリ)の取り出しという、福島第一原発ならではの「廃炉作業」に具体的な進展があるならば、廃炉支援機構も「石棺」という言葉をことさら公文書で示さないに違いない。抗議を受けて引っ込めたとしても、いったん外に「石棺」という言葉を出したことで、今後機会があることに「石棺」を浮上させる意図と考えざるを得ない。

  それを占うような記事が共同通信から出稿された。7月17日付けの「帰還困難区域、一部解除へ」という記事だ。当然ながら地元の福島民報と福島民友はともに18日付け朝刊の1面トップで掲載した。政府は被ばく線量に応じて①避難指示解除準備区域②居住制限区域③帰還困難区域~に区分し、それぞれ規制してきたが、①と②については2017年3月末までに全面解除の方針を示している。しかし放射線量が年間50ミリシーベルトを超える帰還困難区域は立ち入りも原則禁止されている。これに対して、政府・与党は除染やインフラの整備などで2021年度を目途に徐々に規制を解除する方針というのが記事の内容だ。

  この記事を読んで奇異に感じるのは、政府方針の中に廃炉との整合性が示されていないことだ。そもそも公衆の年間被ばく限度は国際基準であるICRP基準では1ミリシーベルトでる。しかし政府は昨年「年間20ミリシーベルトまでは健康に影響ない」とする原子力規制委員会の見解を受け、年間の被ばく限度を20ミリシーベルトまで上げてしまった。一方で、放射線従事者が立ち入る放射線管理区域の基準は年間5ミリシーベルトのまま据え置かれている。この新基準に従って現在、次々と避難指示の解除が進められているのだが、元来「事故収束のための緊急避難的な数字」とされる年間20ミリシーベルトをさらに上回る「帰還困難区域」を順に解除するという考え方に対して、抗議の声があまり聞かれない。

  帰還困難区域は福島第一原発の間近に位置している。厳しい規制を緩和する以上、廃炉に向けた作業のうち重要な①汚染水処理②核燃料デブリ取り出し-が進んでいることが前提のはず。しかし実態は両方ともほとんど進んでいないことが分かった。3年かけて320億円もの国税をかけて行っていた凍土壁は十分機能せず、デブリの取り出しもこれから検討するという状態で、5年後から危険区域に人を戻すことが出来るのか。

  気になるのは「デブリ取り出し」想定開始時期と、帰還困難区域の解除開始がいずれも2021年と想定されていることだ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの翌年である。本当は、この年ぐらいから「石棺」論議が本格化するのではないかとの疑念が湧いてくる。

 

(2016/07/25)