国連PKO「駆け付け警護」の迷妄

崩壊している南スーダンの実態報告を聞く

 安倍晋三政権は昨年の安保関連法制(いわゆる戦争法)成立と今年3月の施行後、初めてとなる国際PKOを南スーダンで始める。中谷元防衛相は陸上自衛隊北部方面隊に派遣命令を出し第7師団を中心にした施設部隊約350人が6月中旬までに南スーダンに入る。既に先遣隊約130人は出発した。一連の法制の中に紛れ込ませた「国際平和協力法」で、他国軍兵士や国際的非政府機関(NGO)などの救援のための「駆け付け警護」や「宿営地の他国軍との共同防衛」などを可能とさせたが、今回は行わない方針らしい。一部メディアは、その理由について7月に予定されている参議院議員選挙への影響をさけるためと書いているが、いかにも安倍政権らしい発想だ。

▽参加5原則に合致しない状況

 その南スーダン。現在、自衛隊が唯一派遣されている国だけに、防衛省も自衛隊も何としても続けたいらしいが、実際の状況はどうなのだろう。派遣部隊のいる北海道ではかなり紙面展開されているが、他の地域ではほとんど関心がないようだ。そんな折、スーダンに常駐してボランティア活動をしているNGO「日本国際ボランティアセンター」(JVC)のスーダン現地代表、今井高樹氏が一時帰国し、新外交イニシアティブがこのほど衆議院議員会館で主催した会議で「自衛隊派遣のリスクを考える」と題して報告した。その内容は政府が主張しているPKO参加5原則の状況にはほど遠く、現在各国が行っているPKOにはそもそも駆け付け警護という任務がないという話だった。

 南スーダンは1956年から続いたスーダンとの内戦を経て、2011年に独立したが、2013年12月から南スーダン国内で内戦状態となった。大統領派と副大統領派の権力争いが始まったとのことだが、背景にそれぞれの民族が絡み、あっという間に内戦が全土に広がり、殺りく行為がエスカレート。国連人権委員会は今年4月、内戦の死者を5万人と発表したが、データは一昨年ぐらいのもので、30万人以上が死亡したという説もあるとのこと。難民も国内外に280万人出ており、18万6千人がPOGと呼ばれる保護施設にいて、帰還の目途はたっていない。

 南スーダンは米国や中国、イスラエルの影響の強い国だが、周辺国も一緒になって双方に圧力をかけ、昨年8月停戦で合意。さらにはる暫定統一政府を今年1月までにつくり、30ヶ月間の暫定統治を経て総選挙という段取りまではできた。首都ジュバも非武装化することが決まり、昨年11月からは大きな戦闘は減った、と伝えられている。

▽跋扈する部族ごとの武装集団

 しかし今井さんによると、内戦は必ずしも政府軍と反政府軍という「正規軍」同士で争われているわけではないという。政府軍系の民族、反政府軍系の民族がそれぞれ武装集団を形成し、他民族の村を襲ったりしている。民族といってもトライブ(部族)のようなもの。互いに少しずつ言語や宗教が違い、何もない時には仲も悪くなかったのが、互いに憎悪に火がつくと殺りくが止まらなくなる。武装集団は国際PKOが保護するPOGにも襲撃をかけてくる。こうした際、PKO部隊司令官に問われる能力は双方との交渉による安全対策と今井さんは指摘する。

 武装勢力同士が対峙して交戦中に、国連PKOが戦車などで介入すると、どちらからも敵と間違えられる恐れがある。「救出作戦」などを展開すると火に油を注ぐだけで、PKO部隊への反感を呼び、報復攻撃を受ける可能性がある。このため戦闘が起きているところにはPKO部隊を送らないし、さらに南スーダンでは昨年12月の国連安保理決議2252に基づき①市民保護②人権に関する監視と調査③人道支援のための条件整備・後方支援④和平合意の履行支援-という任務になった。安倍政権が言うような「駆け付け警護」という任務は入っていないという。

 日本は昨年、武器の使用問題などをかなり緩和(拡充)したが、それでもPKO参加5原則を守るとしている。その原則の第一が「紛争当事者の間で停戦の合意が成立していること」であり、政府は昨年停戦で合意、政府側と反政府側で暫定政権ができるとしたことで原則は守られていると説明している。

▽食べるために襲撃

 しかし停戦後の南スーダンの行く末を決めるのは経済だろう。元々99%を石油生産に頼っていたという。スーダンから独立する前はスーダンの「アラブ系」が独占していたものを、誰が(つまり、どの民族が)手中に収めるのか。何も解決していない。油田もほとんどが内戦で破壊され、稼働できているのは1カ所だけだという。産油国なのにガソリンスタンドではガソリンは売られてなく、完全に闇で売られ1リットル400~500円という超高値になっているらしい。当然ながら食料品も高騰。バイクを盗むために運転者を殺すというようなことが日常茶飯事となっている。

 今井さんによると政治的な対立は減っても、こうした夜盗のようなグループが徘徊。武装勢力あるいは武装集団などと称されている集団は、自分達が食うために、あるいは食えないから村を襲い、他民族を虐殺する。農業ができない。畑作りができないので、食料がない。だから生き残るための襲撃は絶えない。「治安維持活動」による武力で抑えつけたり、遠隔地にいる他国軍や民間人を守るための「駆け付け警護」で何かがうまれるものではないし、「停戦」できるという状況ではない。

 今井さんから実際に話を聞くまで、南スーダンの状況を深刻に考えてこなかったが、内戦後変わり果てた首都ジュバの現状などを聞くと、安倍首相や中谷防衛相が気楽に話すようなPKOではないことが理解できる。外務省は日本のNGOや研究者に対して、南スーダンへの入国を規制しているというが、そんな安全を保証できないところで、誰に対してどんな「駆け付け警護」を行おうというのか。あらためて国民に開示する義務がある。

2016年5月25日