環境保護に逆行する安倍政権の本音を示す丸川珠代環境相

被ばく限度の世界基準は守らず、地球温暖化も促進

 昔、鯨岡兵輔という政治家がいた。松村謙三に師事し、三木武夫元首相の直系として、下町育ちの「江戸っ子政治家」を標榜した。土井たか子衆院議長の時の副議長だったが、最も輝いていたのは環境庁長官時代と思う。任期は鈴木善幸首相時代の1980年から81年までの14カ月だったが、環境行政に残した功績は大きい。内閣改造で閣外に去る時、環境保護団体から「異例」の留任要請が出たほどだった。私が環境庁取材を担当したのは鯨岡長官から数代経った長官の時だったが、記者クラブの壁には、正確に覚えていないが「クジラを守れ」という内容の張り紙が残っていた。もちろん、この「クジラ」は海のクジラと鯨岡氏を掛け合わせたもので、長官退任後もたまに遊びに来た鯨岡氏はこの張り紙を見て喜んでいたという。そのころの環境庁記者クラブは「誰でもウエルカム」、環境保護団体が絶えず入り浸っていた。

 

▽除染で限度以下は不可能という本音

 環境庁が環境省になったころから、日本の環境行政は後退傾向を強めていたが、丸川珠代環境相はここ数日、はっきりと逆行を打ち出した。一部のメディアは、福島原発事故の除染問題に対する丸川大臣の発言について「舌足らず」などの見方をしているが、違うだろう。安倍政権は最悪の環境破壊といえる戦争に突き進もうとしているのだから、環境保護などという体裁はじゃまという姿勢だと思われる。

 

 丸川大臣はまず、東電福島第一原発事故で汚染された地域の除染について、7日長野県松本市での講演会で、除染の基準となる年間被ばく量限度を1ミリシーベルトとしたことについて「『反放射能派』と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だという人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で、何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた」と述べるとともに、除染の基準が厳しすぎ「(除染が終わらないため)帰れるはずの所にいまだに帰れない人もいる」と主張したという(28日付け信濃毎日新聞)。

 

 丸川大臣は10日の衆院予算委員会で「福島の皆様に誤解を与えているとしたら申し訳ない」と陳謝したが、この一連の発言を朝日新聞の11日付け朝刊のように「新任閣僚、ふらふら答弁」というくくりの中で終えてしまうのは問題だ。

 

 共同通信によると、丸川大臣は予算委員会で「1ミリシーベルトを除染だけで達成するとか、帰還の際の目標値だと誤解している人がいる」と述べている。他紙は紹介していないが、予算委での発言であり、環境省の官僚が作った問答に沿って述べているのだから、これは安倍内閣の方針といえる。

 「年間1ミリシーベルト」という数字は国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告している一般人の通常時の年間被ばく限度である。低線量被ばくに閾(しきい)値があるのかどうかという議論はあるが、国際的にこのレベル以下ならと認められている。旧ソ連チェルノブイリ原発事故でも年間1ミリシーベルト以下を居住の基準としている。

 

 これに対して丸川大臣および環境省は①除染をしたところで年間1ミリシーベルトのレベルに達しない②帰還するのは年間1ミリシーベルトに下がってからではない(かなり線量が高くても帰還させる)-と言明した。ここまで、あけすけに安全といえないところに帰還させようとする政権の姿勢には恐怖すら覚えるが、ほとんど問題視しないマスコミ、他人事と思って無関心な国民が支えているのだろう。

 

▽世界に逆行、二酸化炭素多い石炭火力容認

 丸川大臣は松本で問題講演を行った翌8日、林幹雄経済産業相と会談し、二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電を容認すると表明した。環境省は昨年6月、山口県宇部市で電源開発などが計画中の石炭火力について、環境影響評価(アセスメント)に基づき「容認しがたい」とする意見書を出したのを皮切りに、中部電力や九州電力が計画している石炭火力計5件について、いずれも「是認できず」などの意見書を提出した。

 

 こうした動きに、安倍政権寄りの産経新聞も昨年121日付の紙面で「東京電力などが進める石炭火力発電所の新設計画が中止に追い込まれる可能性が出てきた」と書いたぐらいだった。今回の環境大臣と経済産業大臣の会談で、環境省は望月義夫大臣時代の姿勢からほぼ180度方針転換するだけでなく、アセスメントを事実上意味のないものにすることになる。特に昨年末、パリで開かれた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の合意も踏みにじることになり、世界から呆れられかねない。

 

 民主党政権当時、福島原発事故での除染など環境対策を経済産業省などに行わせず、環境省にしたのは、経済産業省や原子力安全委員会(当時)などの原子力ムラが信用できないと判断したためと記憶している。しかし実際に除染などの現場を仕切っていたのは経産省から来た役人たちで、巨額の国費を投入しながら、きちんと処理できているのか疑問符が出ていた。丸川大臣による福島原発事故被害者への対応といい、石炭火力問題といい、環境省は環境保護から遠ざかろうとしている。亡くなった鯨岡兵輔さんが聞いたら何と思うだろう。

2016211日)