大地震時に対応できない川内原発

免震棟も耐震棟もないまま再稼働させた規制委

 

 震度7の地震が同じ場所で3日を開けずに起きたという今回の熊本地震。気象庁の地震予知調査課長が「今までの経験則を外れている」と述懐するように、地震の起こり方が変わってきている。現在のところ熊本と大分両県が中心だが、九州から四国、本州を縦断し糸魚川-静岡構造線(フォッサマグナ)にぶつかる中央構造線の地溝帯に沿って群発していることは間違いなさそうとの見方が高まってきた。単なる一部地域の活断層が横ズレを起こした地震ではないという認識だ。

 

 一連の地震活動がいつ収束するかというよりも、どこまで大きな地震が発展するかが地震専門家の間でも議論となっており、活発な動きをしている熊本県内の2つの活断層帯、布田川断層帯と日奈久断層帯という2つの活断層の南西部にひずみがたまっているとの見方が強まっている。実際にどこが震央となるか不明だが、現在唯一稼働している九州電力川内原発は二つの断層帯の南側にあり、すぐ近くで大きな地震が発生する恐れがある。

 

10万人以上が停止求めネット署名

 このため川内原発の動きに国民の関心は高く、一連の地震活動が休止するまで稼働を停止するよう求める声が大きくなっている。原発停止を求めるネット署名は4日間で10万人を超え、取りあえず21日に安倍晋三首相に提出するという。しかし安倍首相と政府はあくまで運転を続ける構えで、19日には20113月の東日本大震災で東電福島第一原発事故に対処し、その後中電浜岡原発に稼働停止を求めた菅直人元首相が川内原発稼働停止を求めて国会で質問したが、担当の丸川珠代環境相兼原子力防災担当相はあらためて止める気がないことを表明した。

 

 その背景には、次々と原発再稼働を打ち出す原子力規制委員会の動きがある。日本中が熊本地震の動きを注視している最中、規制委は四国電力伊方原発の再稼働を認めた。伊方原発は中央構造線上にある原発である。関電高浜原発1、2号機も再稼働を認めた。原子力規制委員会のメンバーがまっとうな科学者なら、こんな先が見えない状況の中で次々と再稼働を認可することなどあり得ないと思うが。

 

 しかし田中俊一原子力規制委員長は18日の記者会見で「科学」という言葉を使って川内原発の運転継続を承認していた。その時の田中委員長の発言は、川内原発再稼働の審査で布田川、日奈久両断層帯の地震を含めた「不確実性があることを踏まえて評価しており、想定外の事故が起こるとは判断していない」というものだった。その上で「今のところ(原発を止める)科学的根拠はない」と断言している。

 

▽最悪シナリオの重要性

 驚くべきものだ。田中委員長は原子力では専門家かもしれないが、地震や火山噴火の専門家ではないはずだ。気象庁の地震予知調査課長が「経験則を外れている」と言い、少なからぬ専門家が2つの断層帯の端で大きな地震が起こる恐れがあるとしているのに、規制委では「不確実性」として既に評価していたというのだろうか。きちんとした「科学的評価」があるのなら、居住している住民に公表して避難対策に役立ててもらうように図るべきではないのか。

 

 田中委員長の口から飛び出した「想定外」。何かというと出てくる「防災」という言葉とセットのようになって使われている。自然災害を防ぐことができるという驕りのような「防災」。防げなかった場合は、いつも「想定外」となる。だから「防災」という言葉を止め「減災」「縮災」という言葉を使うべきだと言っている専門家もいる。中央防災会議地震・津波対策に関する専門調査会座長の河田恵昭・関西大学社会安全学部教授だ。河田教授は「災害の外力である気象、海象、地象などのハザードが変化している」として、地震も起こり方が変わると考える必要があると強調。大災害が起こることを前提とした減災・縮災を考えるべきだと主張している。このためには「最悪シナリオ」を考えることが重要で、最悪シナリオを想定して対処すれば「想定外」はなくなる。

 

 川内原発にここまで注意を払って「最悪シナリオ」を想定しなければならないのは、この原発は安倍首相が言うような「世界一厳しい審査をパス」したのと裏腹に、再稼働当初からトラブルに見舞われていたためだ。すでに大半の人は忘れているが、昨年8月再稼働した直後、発電タービンを回した後の蒸気を冷却して水に戻す復水器でトラブルが発生。冷却用配管に穴が開いて、循環している水が漏出した。再稼働前には、最も重要な装置の一つである蒸気発生器でトラブルもあった。一つ一つのトラブル内容は異なっているが、背景には原発の老朽化がある。

 

▽大地震時の指令所なし

 その上、規制委の審査では建設することになっていた免震重要棟について、九電は再稼働後、言を覆して建設しないと表明。規制委との協議の中で今年325日、免震棟は造らず重大事故時の耐震支援棟を建設して緊急時対策所に代替すると正式発表したばかりだ。免震重要棟は東電福島第一原発事故で「これがなかったら(事故収束は)どうなっていたか」というほど重要な役割を果たしたのだが、九電は無視したまま押し切ってしまった。規制委は耐震施設に一定の評価をしたというが、今後の審査の対象になった。つまり現時点では、福島原発事故のような巨大な地震に見舞われたら、安全に対応でき、作業員も休憩できるような施設は川内原発にないのだ。

 

 東電福島第一原発事故では、津波に見舞われる前に、地震でかなり破損したとの疑いが消えない。東電が全データを明らかにしていないため不明な点が多いが、東電も津波による全電源喪失の時間では計算できないほど早くからメルトダウンしていたことは認めている。川内原発でも震度7クラスの激震に見舞われたら、無数に張り巡らされている配管などは多数破損するだろう。免震構造物がないので、発電所全体を指揮する指令塔も壊れて使い物にならない恐れがある。

 

 田中委員長がどういうものを「想定外の事故」としているのか分からないが、少なくともフクシマを経た現在、発電所の爆発は想定外とは言えない。「まさか、九州で大地震は起こるまい」などと思って作った「科学的根拠」など、現実の前には根拠を失う。大地震では安全に停止することをうたい文句にしてきた新幹線も脱線してしまった。想定外ばかり出てくる「科学」は、世界のサイエンスとは全く別物とされてしまうだろう。

2016420