コラムno.28  安倍首相的抑止力は核抑止力か?

 石原慎太郎氏と思惑が重なる「核燃サイクル」維持            どうする「もんじゅ」と再処理工場

 

 昨年以来、集団的自衛権の閣議決定、安保関連法制(戦争法)の強行採決、原発再稼働と続けてきて、安倍政権はついにTPPでも米国に大幅譲歩して「大筋合意」を成し遂げた。101日には武器輸出を政府として促進する防衛装備庁も発足させている。まさに山本太郎参議院議員が8月の参議院特別委で示した、米国の「ジャパン・ハンドラー」達の指示に忠実に従っているといえる(啄木鳥No30「原発再稼働は米『調教師』の指示?」参照)。

 

 戦争法の成立で、安倍晋三首相はまずPKOの「駆け付け警護」から海外派兵を始めるのだろうが、しきりに主張しているのが「抑止力」だ。安倍首相的抑止力は何なのか、周辺から探ると「核抑止力」に落ち着く。安倍首相は「核抑止力」という表現を避けているが、中国や北朝鮮を潜在敵国としている以上「抑止力」とするためには自前の核が必要という論法が出てきかねない。そのために必要不可欠なのは、核燃料サイクルだ。ただ「核抑止力」は核拡散防止条約(NPT)からの脱退を余儀なくされる。ハンドラーたちの思惑と大きくずれてしまうのは間違いない。

 

全く動かない「もんじゅ」

 日本の核燃料サイクルの2つの柱は、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」と六カ所再処理工場である。しかし併せて3兆円以上の金を注ぎ込みながら全く進展していない。民主党政権下では巨額の国費を投入している「もんじゅ」が仕分けの対象となり、研究炉である「もんじゅ」の廃止・廃炉が商業炉の「脱原発」と並んで大きな柱になっていた。この時、多くの大手メディアは民主党の政策を冷笑し、脱原発を批判していた。自公政権の復帰はそうした声に後押しされたといえるが、その後も全く進展していない。

 

 すでに1兆円以上の国税を投入している「もんじゅ」。予備設計が始まったのは1968年と今から47年も前のことだ。1983年に福井県敦賀市で建設が始まり、94年に初臨界し、958月には運転を開始したものの同年12月にナトリウム漏れ事故が発生。事故の隠蔽や調査担当次長の「自殺」などが起き、主体の動燃(動力炉・核燃料事業団)が解体されるなどの曲折があり、動燃の後継となる日本原子力研究開発機構によって20105月に15年ぶりに再起動したものの、3カ月後に炉内中継装置の落下事故を起こし、長期にわたって停止したままとなっている。

 この間、12年には9679カ所もの点検漏れが判明、13年2月の原子力規制委による立ち入り検査でさらなる保安規定違反が見つかり、原子力規制委は同年5月に運転停止命令を発令したまま今日に至っている。

 

 今年10月1日には同機構が「もんじゅ」の所長ら15人を戒告の懲戒とする処分を発表したが、原子力規制委による運転停止命令が出てからの9回の保安検査で7回も保安規定違反を指摘されるなど、体質は改まっていない。これだけ違法行為を続けていれば、莫大な国費を投入しているだけに「もう、止めろ」という声が沸き起こるはずだが、不思議とゾンビのように生き残っている。

 

 その理由は「高速増殖炉」にあるのではない。すでに欧米ではほとんどの国が高速増殖炉から撤退している。特に「もんじゅ」は原型炉。実証炉の設計もままならない状態であり、実用化などとうてい考えられない。なぜ、安倍首相は「もんじゅ」をあきらめないのか。その理由はプロトニウムにある。

 

兵器用プル生産に最適な「もんじゅ」

 核燃料サイクルというのは、普通の商業炉(軽水炉)でウラン燃料を核分裂させると生まれるプロトニウムを再処理工程で取り出し、核分裂するプルトニウムの同位体(Pu239)を再び燃料として使おうという計画だ。この核分裂するプルトニウムとウラン、原子炉でも使われるが、核兵器の材料物質でもある。

 

  兵器としては、少ない量で臨界になるプルトニウムの利用がほとんどだ。商業炉核兵器に必要なプルトニウムの同位体(Pu239)は軽水炉で燃やした使用済み核燃料から高純度で取り出すことが難しい。核燃料の燃焼時間が長くなればなるほど「燃えない」プルトニウム(Pu240)の含有が増えるからだ。軽水炉から再処理されたプルトニウムには、この「不純物」であるPu24020%程度含まれているといわれる。核兵器として使うためには、核分裂性のプルトニウム(Pu239pu241)が93.5%以上必要とされているので、現在の商業用原発から出てくる使用済み核燃料と再処理工場の組み合わせでは、抑止力となるレベルの核兵器に使われる純度に上げるのが難しい。

 

 ところが、ここに魔法のような話がある。高速増殖炉では燃料が炉心燃料と炉心燃料を取り囲むブランケット燃料という2つの領域に分かれているが、ブランケット燃料では高速増殖炉の特性で純度の高いPu239が生産される。ブランケット燃料から再処理されて取り出せるPu239の純度は98%ともいわれている。少ない量でより効率よく核爆発できるわけだ。

 

 つまり、高速増殖炉の実用化が難しいとしても、もんじゅのような「原型炉」が維持できてさえいれば、抑止力に使える程度(どの程度かは論議を呼ぶだろうが)の兵器級プルトニウムの保有という最大の難問を解決することができる。これが高速増殖炉原型炉である「もんじゅ」を何としても維持したいという意図だろう。

 

「もんじゅ」維持を主張していた石原慎太郎氏

 その証左が安倍晋三首相と考え方の近い石原慎太郎氏の動きから読み取れる。旧聞となるが201297日、まだ現役の東京都知事だった石原氏が「もんじゅ」を視察したことがある。一部の報道によると、石原氏は視察で「廃炉なんてとんでもない話。絶対にしちゃいけない」と語った。あまり大きく取り上げた報道はなかったが、なぜ東京都の知事がわざわざ直接の縁のない福井県まで視察に出向いて「廃炉にしてはいけない」と強調したのか奇異に思った読者、視聴者もいたはずだ。石原氏は別のところで、青森県の核燃料サイクル基地(再処理工場)についても維持を強く訴える発言をしていた。

 

 振り返ってみると、石原慎太郎氏は「もんじゅ」視察直後の1025日、都知事を突然辞任。国政に打って出るとして、まず「立ち上がれ日本」を母体に「太陽の党」なる政党を結成。「減税日本」と合併を発表した翌日には「日本維新の会」に合流という道を選び、自ら代表に就任した。そして同年1120日の日本外国特派員協会での「核武装シミュレーション」発言になる。

 

 物議を読んだこの時の発言を再現すると、

「日本は核兵器に関するシミュレーションぐらいやったらよい。これが一つの抑止力になる。防衛費は増やさないといけない。防衛産業は裾野が広いので、 日本の産業も、中小企業も助かる」

「軍事的な抑止力を強く持たない限り外交の発言力はない。今の世界で核を保有しない国の発言力、外交力は圧倒的に弱い。北朝鮮は核を開発しているから存在感がある」

「あのシナの覇権主義に侵され、日本が第二のチベットになることを絶対好まない。ノーというときはノーと言う」

 と話していた。つまり石原氏は中国を敵国とみなし、中国に対する抑止力として防衛費の増強と核武装の話を持ち出したのだ。この「中国を潜在敵国とみなし、抑止力の強化を訴える」という論法を、安倍晋三首相は安保関連法制の参議院審議で持ち出している。さすがに石原氏ほど露骨な表現ではないが、昨年度からの急速な軍備増強は外形的に見ると石原論法に沿ったものとも言える。

 

 石原氏は2012年当時、橋下徹大阪市長を抱き込み「日本維新の会」を設立したが、非核三原則の見直しを声高に叫びだした橋下氏を担いで核武装化を何としても進めたいとの思いがあったであろうことは経緯を見るとよく分かる。そして今、石原氏は一線を退いたが、安倍首相と橋下市長に代表される右翼勢力は、どこかで「核武装シミュレーション」を言い出すのではないか。

 

違反続きで運転停止命令中

 政府の中に、早くも安倍首相の意向に沿った動きが出ている。まず原子力機構を管理する文部科学省は今年4月、理事長を更迭し、後任に三菱重工業の元副社長、児玉敏雄氏を据えた。三菱重工業は日本の防衛産業の中で最大手である。その直前には、経済産業省が「発電コスト検証ワーキンググループ」会合で、原発の発電コスト計算から「もんじゅ」の技術開発費を除外することを明らかにした。電力会社の負担軽減が目的ともいえるが、もはや電気を起こすことが目的ではないと宣言したようなものだ。

 

 だが「もんじゅ」運転再開への道のりは厳しい。原子力規制委は原子力機構に対し原子力等規制法に基づき、今月21日までに新たに発覚した点検の不備について全容を報告するよう指示している。約49000点ある機器のうち約3000点について安全上の重要度分類を誤っていたというのが理由だが、違反のままでは規制委は新規制基準適合性審査が行えない。商業炉の再稼働には熱心な原子力規制委の田中俊一委員長は930日の定例会見で「規制当局の立場では、安全確保できることが前提。それが確認できないということになる」と答えている。

 

 新聞各紙によると同日の規制委定例会合では「極めて異様で奇っ怪」(更田豊志委員)「非常に深刻な事態。大きな原子力プラントを運転管理していく資質を考えざるを得ない」(田中俊一委員長)など厳しい意見が続出したという。こうした発言を聞くと、単なる書類上の不備ではない可能性がある。安倍首相らの要求に従って再起動すると、とんでもない事故につながる恐れがあると、規制委は認識しているのではないか。

 

海外から冷たい目

 そこまでして強引に再起動するとなると、海外からは「核武装」との関連が指摘されるのは間違いない。そもそも日本が1988年の日米原子力協定改定で「包括的事前同意」を特例的に取り付け、いちいち米国の許可を得ずに原子力開発が可能になった背景には、核の軍事転用をしないという暗黙の誓約があったはず。ジャパン・ハンドラーたちも日本に自前の核を持てとは言わないだろう。

 

 今年727日付け朝日新聞「核燃料サイクル 計画は白紙に戻すべきだ」という社説に面白い話が載っていた。元米国防総省不拡散政策担当で米シンクタンク「核不拡散政策教育センター」のソコルスキー代表が6月に日中韓3カ国の政府高官を訪ね、経済合理性のない再処理事業の計画や構想の停止を3カ国あるいは米国も含めた4カ国で同時に宣言してはどうかと提案したというのだ。

 

 元国防総省の専門家というソコルスキー代表がどんな人物で、どういう立場から提案したのか不明だ。また、提案を受けた3カ国の反応も分からない。しかし核不拡散政策に関わった人の意見は、それなりに米国の考え方を示しているのではないか。

2015107日)