啄木鳥no.31 人々が自分の意見を、自分の言葉で語り始めた                                                      

 安倍首相と自公政権が覚醒させた日本の民主主義

 戦争法案こと一連の安保法制が参議院で可決成立した19日昼、国会前では少なからぬ市民が三々五々集まって抗議を続けた。18日早朝から19日朝まで連続して抗議行動が続いてきただけに、大がかりな行動を主催してきた「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」やSEALDsメンバーは「休憩」していたようだが、正門前の人たちは一人ひとりが止むに止まれぬ思いで来たことを感じさせた。

 

 その象徴的な光景が、正門前の歩道で車座のようにできた対話集会だ。最初は拡声器もなく、一人がコールの音頭を取ると皆が唱和していたが、一人の男性が「SEALDsに借りてきた」という拡声器を持ってきて、参加者に思いを語ってもらい始めた。

 

 はじめのうちは、戦争法の成立を生徒たちにどう教えるかなどの悩みを訴える学校の教師という男性、自分なりに考える今後の闘い方を提案する中年男性、「自民党幹部が期待するようにシルバーウィークを過ぎても決して忘れない」と決意表明する若い母親などがマイクを持っていたが、マイクに慣れていない年配の女性が突然、訴え始めた。戦争法の危険性をなぜ分からないのか、周囲が皆無関心でいいのか、等々。必死になって訴える姿に、回りの参加者もじっと聞き入った。

 

 この女性は一人で来たのだろうか。昨年6月に集団的自衛権が閣議決定される前後から国会周辺の抗議行動を見ているが、当初から年配の女性が一人、あるいは友達を誘って首相官邸前や国会前の抗議行動に参加する姿が目に付いていた。一人で来たのは夫、あるいは子どもたちの理解がないためだろう。「家族には内緒で来た」という人もいた。

 

 敗戦後70年、多くの日本人は政治や社会問題に関心を寄せず、無意識のうちに「長いものには巻かれろ」という流れの中で生きてきた。一人で来た年配女性の夫たち、今ではミドルといわれる彼らの子どもたち、など。少なくとも、今年6月までは、そうした「長いものに巻かれよう」とする人たちの姿は国会前には見られなかった。

 

 東京新聞は9月16日付け朝刊で「安保デモ拡大 市民続々」と題して、今年5月から今月14日までの「総がかり行動」参加人数の流れを出している。それによると5月12日に日比谷野音で行われた集会とデモの参加者は2800人(主催者発表、以下同じ)。それが6月以降は常時2万人以上となり、8月30日には12万人が国会の周りを埋め尽くし、正門前の車道を完全に占拠した。9月に入っても、平日にもかかわらず連日3万人以上が国会包囲に参加。参議院特別委で自公が強行採決した18日には最大で4万人以上が抗議、一部は19日朝まで抗議行動を続けた。抗議行動は国会周辺だけではない。北は北海道から南は沖縄まで全国各地で広がっている。

 

 参加者が膨れあがったのは、若者たちがSEALDsに代表されるように積極的に声を出すようになったことが大きいが、9月第3週の動きで目立ったのは「アラサー」「アラフォー」のミドル層だ。会社帰りだろう鞄を持って一人で参加してきた男性や、小さな子どもを連れた親たち。中にはSEALDsを一目見ようとして、身動きの取れない国会正門前で固まってしまった年配者たちもいた。いずれも、誰かに指示あるいは命じられてきたのではない。連合などの組合も組合員に参加を呼びかけていたが、動員数は個人の方が圧倒していた。

 

 19日昼過ぎにできた車座も、どこかの団体の指示でできたのではない。自然に生まれ、一人ひとりが順に自分の思いを発表。拡声器を持ってきた男性に促されて各自が順番に「コール」の音頭を取ったが、マイクを持たされてコールではなく、自分の思いを語り始めた年配の男性もいた。

 

 この光景を見て、既視感に襲われた。直接見聞きしたのではない。インドシナ諸国やアフリカなど、戦禍でほとんどのインフラが破壊され、多くの人が犠牲になった後、残った人たちが立ち上がって広場で再生に向けた集会を開いたという映像や写真だ。戦後間もなくの日本も同様だったのではないか。日本はまだ戦争に巻き込まれてはおらず、戦禍が国土に及んでいるわけではない。しかし、こうした光景が現在、日本各地でみられるのではないだろうか。

 

 一連の抗議行動をみていて、気づいた点がもう一つある。創価学会の三色旗を持って参加する学会員が着実に増えていることだ。「自分は創価学会員だが、戦争法案に反対する」と抗議行動で表明していた人を最初に見かけたのは6月半ばだったと思う。12日に連合会館で開かれた「憲法行脚の会」主催の「安倍〝壊憲〟政治をストップする」というリレートークで、フロアにいた二見伸明・元公明党副委員長が壇に上がり「創価学会は集団的自衛権に反対している」と表明。公明党を公然と批判した後ぐらいと記憶している。最初は目立たなかった三色旗も、今では地方公聴会の行われた横浜でも目に付くようになった。18日夜、私の前では三色旗を持った老夫婦がSEALDsのコールで声を張り上げていた。

 

 こうした動きは誰にも止められないだろう。既存の組織対組織、政党対政党という対立図式の延長線上の動きではないからだ。安倍晋三首相のおかげで、かなりの日本国民は覚醒してしまった。老若男女が「民主主義って何だ」のコールに「これだ」と声を合わせている。考えてみれば「野党がんばれ」というコールも前代未聞のことだった。今は「選挙に行こう」「賛成議員を落選させよう」と声を振り絞っている。評論家の間からは「野党は対案を示せ」という声が早くも上がっているが、国民には憲法違反の法律に対案などない。破棄するだけということが分かってしまった。「頼りない、信用できない」などの疑念も抱かれている「がんばれ」とコールされた野党が、こうした声にどう答えていくのか。これからが勝負だろう。

2015920日)