啄木鳥no.30  原発再稼働は米「調教師」の指示?  

 集団的自衛権、戦争法制、TPPとパッケージの要求

戦争法案こと一連の安保法制の参議院審議が最大のヤマ場を迎えている。自民、公明両党は次世代の党などを集めて法案を強行採決するか、野党と法案に疑問を持つ多くの国民の「民意」で廃案に追い込めるか。国会議員の数では圧倒的に劣勢な野党が、安倍政権が強引に作った長期間の延長国会の閉会ギリギリまで粘っているのも、多くの民意とともに、憲法違反とする大多数の専門家の意見、それに昨年来次々とほころびを示す政府の答弁にあることは間違いない。

 

 つい最近も、安倍晋三首相は昨年の集団的自衛権閣議決定以来、行使の唯一の具体例としてきたホルムズ海峡の機雷除去を「想定していない」(9月14日の参議院特別委員会)と答弁するなど、何のための集団的自衛権、安保法制なのか説明できない状況に陥っている。

 

 そうした安倍首相のちぐはぐぶりの背景を、「生活の党と山本太郎と仲間たち」の山本太郎参議院議員が1枚の資料であぶり出した。8月19日の参議院特別委員会での質疑でテレビカメラの前に示した「第3次アーミテージ・ナイレポート」だ。レポート自体は秘密でもなんでもない。山本議員も海上自衛隊幹部候補生学校ホームページから作ったと説明している。しかし一枚のフリップにして示したことは、近年の国会質疑の中でも画期的な勝利といえる。提言を一つの表にして示したことで、原発の再稼働も日本のTPP参加も、集団的自衛権や一連の安保法案と一つのパッケージであることを、国会という場に残すことができたのだ。

 

日本への指示トップに原発再稼働

山本議員が示したレポートの「日本への提言」9項目と「その他」3項目を再掲すると次の通りだ。

(1)原発再稼働

(2)海賊対処・ペルシャ湾の船舶交通の保護、シーレーンの保護、イラン核開発への対処

(3)TPP交渉参加~日本のTPP参加は米国の戦略目標

(4)日韓「歴史問題」直視・日米韓軍事的関与

(5)インド・オーストラリア・フィリピン・台湾等の連携

(6)日本の領域を超えた情報・監視・偵察活動 平時・緊張・危機・戦時の米軍と自衛隊の全面協力

(7)日本単独で掃海艇をホルムズ海峡に派遣 米軍との共同による南シナ海における監視活動

(8)日米間の、あるいは日本が保有する国家機密の保全

(9)国連平和維持活動(PKO)の法的権限の範囲拡大

その他

(10)集団的自衛権の禁止は同盟にとって障害だ

(11)共同訓練、兵器の共同開発、ジョイント・サイバー・セキュリティセンター

(12)日本の防衛産業に技術の輸出を行うよう働きかける

 

 レポートが発表された時はまだ民主党・野田政権だったが、これをみると安倍首相は第2次安倍政権発足後、見事に報告書に従っていることが分かる。山本議員は質問で「完全なコピー」「完コピ」などと指摘したが、安倍首相が最近になって言葉を濁した「ホルムズ海峡の機雷除去」もしっかりと入っている。

 

 筆者のリチャード・アーミテージやジョセフ・ナイは米国で「ジャパン・ハンドラー」と称されているそうだ。ハンドラーとは調教師という意味である。「日本を調教する」ということは、日本人は彼らに調教あるいは飼育されている家畜か奴隷のような存在ということに他ならない。山本議員は報告書を一枚のフリップで示すことで、集団的自衛権も憲法違反の安保法制も、日本の国政を後ろから牛耳っている調教師の指示によるものであることをズバッと示した。

 

中国の影におびえた米国の指示

 それではなぜ原発再稼働を最初に持ってきたのか。これは2012年当時の原子力をめぐる情勢が大きく影響していると思われる。

 報告書では実際なんと言っているか(IWJ版の翻訳による)。

(1)近未来における原子力エネルギーの欠如は、日本に重大な影響を及ぼすであろう。

(2)国のエネルギー政策に関する決定の延期は、エネルギーに依存する重要な産業を日本から追い出しかねず、国家の生産性を脅かす可能性がある。

(3)開発途上国は原子炉の建設を続けるので、日本の原発永久停止は、責任ある国際原子力開発を妨害することになる。

(4)中国は新規プロジェクトの国内建設を再開しつつあり、最終的には重要な国際ベンダーとして台頭する可能性がある。中国が世界的開発のメジャー・リーグでロシア、韓国、フランスに加わろうと計画しているとき、日本が後れを取ることはできない。

(5)米国としては、使用済み核廃棄物の処理にまつわる不確実性をなくし、明確な許認可手続きを導入する必要がある。

(6)東京とワシントンは安全な原子炉の設計と健全な規制業務の普及を世界的に促進することにおいて指導的役割を再び演じる必要がある。

(7)原子力は日本の包括的な安全保障に欠かせない要素を構成する。原子力研究開発での日米の協力は不可欠である。

 

 情勢分析はあくまで2012年夏までである。当時の状況はどんなだったか。

 前年、2011年3月11の東日本大震災後、東電福島第一原発の破局的な事故はようやく水蒸気爆発などの危機は脱したが、4号機の使用済み核燃料プールが不安定なままで再臨界、核爆発の恐れが続いていた。2012年に入り5月5日には国内原発全50基が停止。6月9日には民主党政権のエネルギー・環境会議が「エネルギー・環境に関する選択肢」を発表。同時に広くパブリックコメントを求めた。いつ完全撤退するかは議論が分かれたが、脱原発の流れが加速していた。一方、福島原発事故そのものについては、まだ政府と国会の事故調査委員会が調査中だった。

 

 そんな中の再稼働要求。「東京とワシントン」「米国」などの言葉が羅列しているが、米国には自立した原子力企業はない。最近不明朗経理が問題になった東芝は2006年、加圧水型原子炉(PWR)の専門メーカーである米国のウェスティングハウス・エレトリック(WHC)を買収し100%子会社としている(東芝自体は沸騰水型原子炉=BWR=を開発)。もう一つの原子力メーカー、 米ゼネラル・エレクトリック(GE)も2007年日立製作所と原発開発の合弁会社を設立した。福島第一原発事故の前から、世界は東芝・WHC、日立・GE、それに三菱重工業とフランスの国営原子力企業グループAREVAが組んだ合弁企業のアメトア、ロシアのアトムエネルゴブロムの4グループでほぼ占められていた。

 

 米国としては、米企業が苦しい時に日本企業に買収させて、日本のカネで延命を図り、途上国などへの売りつけでは日本に先兵をさせて利益だけを図るという構図が見て取れる。こんな状況下、福島事故以降急速に売り込みをかけているのが中国とされる。

 報告書に示された「日本の原発永久停止は、責任ある国際原子力開発を妨害」「中国が世界的開発のメジャー・リーグでロシア、韓国、フランスに加わろうと計画しているとき、日本が後れを取ることはできない」などの文言はまさに、中国に先手を取られる前に日本が走れと調教師が鞭を打っているものといえる。事実、鞭を入れられた安倍首相はトルコなど途上国に原発開発の働きかけと輸出を強化してきた。

 

 一方の米国は1979年3月のスリーマイルアイランド(TMI)原発事故以降、新規の原発立地が行われていない。このためもあって米企業の海外進出もうまくいっていなかったのが現実だ。東芝や三菱、日立など日本の原子力企業が海外に売り込みをかける際にも、日本での再稼働が外せないともいえる。

 

▽レポート執筆時とは変化した情勢

 調教師の鞭によって、安倍政権は鹿児島県の川内原発を皮切りに国内の原発を次々と再稼働させようとしているが、2012年にはなかった変化が米国内にある。2012年に蒸気発生器の事故を起こした米サンオノフレ原発が2013年に廃炉となったことだ。蒸気発生器は三菱が納入したもので、発電会社側は三菱に巨額の損害賠償を請求する事態となっている。廃炉が決まった時には、日本の新聞も「原発輸出に影響か」と書いていた。

 

 レポートが、ホルムズ海峡での機雷除去(実際には敷設されていない)のため、日本に単独で掃海艇を派遣するよう指示していた当時は、イランの核開発が厳しい局面を迎えていた。しかし核開発をめぐる米国や欧州とイランの包括的合意は今年7月にまとまり、ホルムズ海峡をめぐる情勢は一変した。だから安倍首相は昨年の7月以降公言していた「ホルムズ海峡での機雷除去」を撤回しなければならなくなったのだ。

 

 川内原発では2次系の復水器冷却用配管に複数の穴が開いていたことが判明したが、穴を詰めるだけで、原因に対する十分な調査もせずに運転を再開している。九州電力は、このトラブルを「トラブルの深刻度を示す指標(レベル0から4まで)」の真ん中に当たる「レベル2」と評価したが、この間、原子力規制委員会が現場に入って調査し、第三者の目で評価したという話は聞いていない。調教師がサンオノフレ事故前の2012年に示したレポート優先で再稼働を続けるとしたら、極めて危険という以外にない。

2015915日)