啄木鳥 no.13                                                   「定義替え」で高濃度汚染水「放出」の疑惑              問われる「海は誰のものか」

 東京電力福島第一原発2号機近くを流れる排水路(K排水路)から外洋に流れている高濃度汚染水が見つかった事件は、依然として要領の得ないやり取りが続いているが、事態を見るに付け「そもそも海(海洋)は誰のものか?」という根本的な疑問を投げかけざるを得ない。東北一帯で建設が強行されようとしている巨大防潮堤問題とも重なる問題である。

 本来、海岸や海は誰のものでもない。強いて言えば国民、さらには世界全体の財産である。被害もわずかな利害関係者だけが受けているのではない。しかし、今回の件で地元の漁連は「(地下水流出受け入れの前提となる)信頼が失われた」と言い、テレビのコメンテーターも「漁業関係者の信頼回復に努める必要がありますね」と他人事として済ましている。このため国民の関心は薄い。しかし放出された汚染水は確実に太平洋岸を南下(あるいは北上)し、太平洋岸一帯を汚染しているのだ。

 

 汚染水問題の海洋流出は、放射能を帯びた雨水?が流れているというK排水路だけではない。他の放水路からも汚染水が「港湾内」に流れ続けている。こうした中、原子炉を冷温停止させるために毎日発生している汚染水とその対策について、河野太郎衆議院議員(自民)が気になる話を自分のブログに書いている。(ブログ『ごまめの歯ぎしり』2015213日「変えられた汚染水処理の定義」)

 それによると、東京電力は「汚染水処理」の定義を変えて放出を図っているらしいという。

 「汚染水」と一口で語られているが、メルトダウンして塊になっている核燃料を冷却するために原子炉に毎日投入されている冷却水が汚染される高濃度汚染水から、遮断できないまま原子炉施設に流れ込んでいる地下水まで様々。これらをどこまで「処理」し、全量を地上のタンクに貯蔵し続けるのではなく、「処理した水」をいかに海洋に放出するかが議論の一つとなっている。

 現在、原子炉には毎日320トンの冷却水が投入されている。加えて地下水が毎日300トン流入。海岸そばで汲み上げられている高濃度汚染水が毎日100トン。計720トンの汚染水が毎日発生している。

 東電の計画によると、処理はまず2つのセシウム吸着装置を通し、さらに淡水化装置で塩分を除去。真水320トンを精製し原子炉への再注入に使用。残る400トンは貯水タンクに貯められる。

 河野議員によると、貯水量は2月5日現在で241,900トン。これを3基の多核種除去装置(ALPS)で処理。2基のALPSは1日750トンの処理能力があり、主基は平均稼働率が50.5%なので1日379トン処理。増設ALPSは同73.6%なので1日552トン。3基目の高性能ALPSは1日500トンの処理能力があり、平均稼働率は56.8%で同284トン。3系統を一斉に動かすと、うまくいけば合計毎日1215トンの処理が出来る。2月5日現在まで貯水されている汚染水を全量処理するのに199日。一方、毎日400トンの汚染水が発生しているので、199日では79600トン。この汚染水を処理するのにプラス66日。汚染水はさらに発生するので、都合300日はかかる計算だという。

 それもうまくいっての話である。東電の広報資料によると、34日現在、セシウム吸着装置は2基とも運転中だが、肝心なALPS3基とも「ホット試験中」。これまでも、ちょっと運転してはトラブルが発生という連続だったので、今後ともうまくいくか不明だ。

 このALPSでは62種の核種を「除去」できるというが、最終的にトリチウムだけは除去や吸着などが出来ない。「汚染水処理」とは「ALPSを通した水にする」という認識であり、トリチウムは残るので、「汚染水処理」とは「トリチウム汚染水」にするという意味(東電や経済産業省が示してきた「定義」)という。実際、巨大な原子力ムラである国際原子力機関(IAEA)もしきりに「トリチウム汚染水」を海洋に放出するよう促している。

 ところが東電は、この定義を変えたと河野議員は指摘。セシウム吸着装置だけか、同装置を通した後「モバイル型ストロンチウム除去設備」「RO濃縮水処理設備」と呼ばれるものを通した汚染水も「処理した」と定義を変更しようというのだ。ALPSは額面通り働けば62種の放射性核種を吸着除去できるのに対して、2つの装置ではストロンチウムしか除去できないので「中ストロンチウム汚染水」というものになると指摘している。当然ながら、ストロンチウムも含めほとんどの核種は「処理」されないまま海洋に放出されてしまう。

 従って河野議員は「汚染水はALPSを通さなければならない」とブログで表明。なおかつ、トリチウムについては何回か稼働していたALPSでも1リットル当り40万ベクレルが残っており、告知濃度限界の同6万ベクレルを大幅に上回っているので、技術革新の必要性を指摘している。

 この「中ストロンチウム汚染水」にするという東電の計画は、経済産業省が224日河野議員ら自民党に説明。各社も取材したらしいが、経済記者ばかりだったのか、ほとんど反応はない。

 同じような高濃度の放射性汚染水を放出した20114月初めころには各社大騒ぎしていたという記憶があるが、この4年間に丸め込まれてしまったのか、報道を自粛しているのか。大手マスコミの意図は分からないが、このままいけば「K放水路」事件の裏で、「中ストロンチウム汚染水」が堂々と太平洋に放出されてしまうのではないかと危惧される。

 問題は、この重要な問題が相馬漁協やいわき漁協など地元の漁連に示されているかどうか分からない点だ。セシウムを除いた多種の放射性物質が含まれた汚染水が放出される海では、操業再開などままならないだろう。

 しかし被害を受けるのは「地元漁協」だけではない。太平洋沿岸の漁民、海水浴客、サーファーなど直接海と接している人たちだけでなく、広範な人々が直接間接に放射能汚染の影響を受ける恐れがある。太平洋岸諸国から後ろ指を指されないためにも、「海は誰のものか」をあらためて考えたい。

201535日)