啄木鳥

「異様な記者会見」が突きつけた日米メディアの違い

ネタ貰いの日本メディアではあり得ない、米国記者の矜持

 

間もなく世界でも最も怪しげで危険な最高権力者が米国で誕生する。ドナルド・トランプ大統領だ。16日伝えられた最新の米ギャロップ世論調査では不支持が51%と過半数で、異例の不支持率という。20日に予定されている大統領就任式には招待されながら欠席を言明する著名人も目立っている。

 

▽「罵詈雑言」に終始する最高権力者

そんな状況で11日に行われたトランプ氏の当選後初の記者会見。自分を批判するメディアを敵視し、「黙れ」などと脅す光景は日本でもテレビで放映された。それについて毎日新聞は13日付の社説で「驚くべき光景だった」と切り出した。「民主国家の大都市ニューヨークで独裁国家の指導者のように振る舞った」と続ける。また日経新聞は「醜聞・罵倒 異様な会見」との見出しで、トランプが「質問しようとした米CNNの記者を遮り、罵詈雑言を浴びせた」と報じた。そこに見えたのは「不寛容」というレベルではない。批判を一切許さないという権力の横暴である。

 

 ただ、間違えてはならないのは、この「異様な」光景が世界に報じられたのは、米国メディアが権力者と果敢に闘おうとしたからだ。トランプに質問もせず、トランプが一方的に口撃するのを紹介するだけの「会見」だったら、これほど話題にならなかっただろう。

 

 そのためか報じる日本の新聞各紙の論調は戸惑いが見られる。先の日経新聞は「米メディアとの対立も深刻さを増し、不安を抱えての船出となる」と書いたが、明るみに出たのは単なる対立ではない。英オックスフォード辞書が昨年の言葉に選んだ、トランプ流「ポスト真実」、ウソとデマがまかり通る歪んだフェイク情報との闘いである。

 

 この記者会見。外からでは気が付きにくかったが、記者団を「トランプ親衛隊」が取り囲み、トランプ発言で一斉に拍手喝采するなど、通常ではありえない光景だったという。「ハイル・トランプ」と叫んでいる白人団体の映像も最近出ているが、批判者への圧力と権力者への賛美を象徴するとともに、ヒトラーを彷彿させるシーンといえよう。

 

▽質問もできない日本の記者たち

この会見に対して戸惑った新聞以上に及び腰だったのがテレビ各局。TBSの「報道特集」や「サンデーモーニング」がきちんと取り上げたぐらいで、後は簡単に「異様な会見」を伝えただけのようにみえた。

 

「最高権力者に厳しい質問などしていいのか」「相手の痛いところを追求して怒りを買ったらどうするんだ」

たぶん、日本の既成メディアの幹部、コメンテーターたちの心情はこんなものだろう。おとなしく言われるままに報道するべきで、なぜ言うとおりにしないのかということではなかったか。それが「大本営発表」のままと批判されようが、権力や行政からネタをもらって「特ダネ」と称しているメディアの本音だろう。最高権力者から酒食を振る舞われ、喜び勇んで、宣伝に興じる日本の「ジャーナリスト」には、米CNNの姿勢など想像もつかない世界に違いない。ニューヨークタイムズの元東京特派員マーティン・ファクラー氏が著した「安倍政権にひれ伏する日本のメディア」の実態が、トランプ会見に対する日米記者の違いから浮き彫りになったといえる。

 

▽トランプが狙うマスコミの分断

トランプが狙っているのは米国の「分断」に違いない。人種の分断、民族の分断、宗教の分断等々あるが、今最も分断したがっているのはメディアだろう。「ポスト真実」の先進国・日本ではメディアは完全に分断され、読売・産経・日経グループと「それ以外」に分かれている。さらに在京と地方とでも激しい分断が起きている。これに対し今回のトランプ会見では、最も右翼とされるマードックテレビがライバルのCNNに寄り添って、トランプ批判を展開している。

 

しかし米国でも、日本と同じような「自粛」の動きが広がっているという。

AERA1月23日号によると、「民間人に対する見境のない口撃は『言いたいことを控える』という萎縮と自粛のムードを生み出している。米国永住権を申請している移民やその家族、ビザ滞在の外国人の中には、すでにSNSでの発信を削除する人も増えた」という。(ニューヨーク在住のジャーナリスト津山恵子『嫌われトランプの波紋』)。

 

記者会見後もツイッターを使って、誰かをののしることに余念のないトランプ。米女優メリル・ストリープはゴールデングローブ賞受賞のスピーチで、身体に障害を持つ米人記者を物まねで揶揄したトランプを批判。「軽蔑は軽蔑を呼び、暴力は暴力を生みます」と訴えた。軽蔑、侮蔑、ののしり、罵詈雑言等々。知性を全く感じさせないトランプ氏と同じように、反知性主義をむき出しにして批判者への口撃を続けているのが安倍首相だ。米国と日本が全体主義、排外主義で歩を揃える世界は想像するのも恐ろしい。

(2017年1月17日)