「啄木鳥」新国立過労死を招いた「同調圧力」

安倍首相が目論む東京五輪政治の行く末は?

 

 2020年に計画されている東京オリンピックのメーン会場となる新国立競技場建設に関わっていた、23歳の新人技術者が事実上の過労死していたことが、遺族の労災申請で明らかになった。「尋常ではない現場」(TBSテレビのインタビューから)で、死ぬ1カ月前の残業時間は212時間弱という異常なものだったのが直接の原因だが、背景に安倍政権とマスコミが主導する何でもオリンピックのためにという「同調圧力」の犠牲者に間違いない。

▽就職1年未満で過労自殺

 各紙の報道によると、この技術者は2016年4月に都内の建設会社に就職。同年12月に約1年9カ月遅れて着工した新国立競技場の地盤改良工事の作業管理者として、同月中旬から競技場の勤務となった。この間、着工の遅れを取り戻すためか、工事が急がれ、作業管理業務が徹夜となることも多く、死ぬ1カ月前の残業時間は212時間弱になっていたという。

このうち午前7時に出勤し翌日午前8時まで勤務する「一日拘束」が3回もあった。新人に作業管理をさせるという異様な会社側の勤務状態の中で3月2日に失踪。家族が探していたが、4月15日になって遺体で発見され、遺書があったことから自殺と断定されたという。

 技術者が過労自殺した新国立競技場の現場について、TBSの取材に答えた作業管理者は「尋常でない現場」と指摘し、この技術者のほかにも何人も突然来なくなった人がおり、「限界ですよ」などとの会話があったことを証言。朝決まったことが(設計者?の意向で)急に変更になったりして、現場は混乱状態と説明。全体が「ギリギリの状態にある」と話した(7月23日報道。ちなみに同報道のタイトルは『新国立過労死』)。

▽五輪と共謀罪応じさせる同調圧力

 もともと新国立競技場はトラブル続きだ。当初はイギリスの設計者ザハ・ハディドによる競技場案が決まっていたが、建設費が高すぎるなどの批判が出て、安倍首相は2015年7月白紙撤回。その後、再びコンペが行われ、15年12月22日に大成建設・梓設計・隈研吾チームに決定した。この間に旧国立競技場は壊され、約120世帯が暮らしていた都営霞ヶ丘アパートは観客の滞留場所という理由で取り壊された。この間、建設費の高騰や日程調整の疑惑などが報じられたが、曖昧な結論のまま今日に至っている。

 そして今年3月、安倍首相は強引に共謀罪(テロ等準備罪)の審議を強行。その時の主張は「テロ等準備罪(共謀罪)がなければ、オリンピック・パラリンピックは開催できない」というものだった。オリンピックに関係なさそうな共謀罪の採決強行と、過労死を生み出した過酷な新国立競技場の建設状況。直接関連はないかのようにみえるが、同調圧力という大きなくくりの中で関わりあっていると推察される。今回、亡くなった新入社員の会社は、安倍首相、菅官房長官との関係でしょっちゅう名前が出てくる大成建設の下請け会社であることも忘れてはならない。

▽ボツにされた反五輪企画

 「東京オリンピックというと、批判や異論を唱えることができないような空気が漂っている」と『反東京オリンピック宣言』の編著者、小笠原博毅・神戸大学大学院教授は7月4日付の東京新聞夕刊インタビューで語っている。同書はもともと、ある人文系月刊誌の特集として企画されたものだったが、経営陣から一方的にボツにされたという。

 インタビューで小笠原教授は次のように語っている。「東京五輪の一番の推進力は『どうせやるなら派』だ」。東京オリンピックにおかしいと感じていても「もう後戻りできないと観念した人たち」で、そういう人は多数いるという。

 「どうせやるなら派」は国家的行事だから反対できないと思い、今度は反対者を攻撃する側に回ってしまう。亡くなった技術者が新国立競技場の現場に投入されたのは、まさにこうした空気が蔓延していた時だった。オリンピック批判者は「非国民」であるかのような印象操作が行われ、安倍首相はテロリストまがいの脅しをかけてきた。テレビでもネットでも「ここまで進んだ」という建設状況が流れ、その分しわ寄せが現場に押し寄せた。

今回は遺族の労災申請という形で表面化したが、「突然来なくなった」他の人たちは今どうしているのだろうか。また「尋常でない現場」で、今後同じような過酷な長期労働による過労死は起きないと保証できるのか。東京オリンピックはやはり共謀罪や過労死などの負の遺産になりかねないと言えそうだ。

(2017年7月24日)