「ブックレビュ-」                   『福島が日本を超える日』(かもがわ出版刊)        原発だけでなく、戦後日本のシステムへの警鐘福島原発「生業訴訟」原告向けの講演をまとめる

 東京電力福島第一原発爆発事故後、福島県内だけでなく県外避難した人々による損害賠償訴訟が各地で進められているが、中でも原告数が多いのが「『生業を返せ、地域を返せ』福島原発訴訟」だ。2013年の提訴以来、原告は4000人近くになり一連の原発訴訟で最大となっている。

 ほぼ2カ月に1回のペースで開かれている口頭弁論では、法廷に入れない原告が非常に多く、数百人が廷外で終了を待っている状態という。そこで裁判の原告団、弁護団が考えたのが待っている間の講演会。原告団と弁護団が主催し、脱原発関係の出版で有名な京都市のかもがわ出版が後援する形で講演会が行われてきた。本書はその講演記録である。

 

▽原発は特に腐ったリンゴ

 本書で登場しているのは講演順に、厳しい政府批判で有名な経済学者の浜矩子・同志社大学教授、「永続敗戦論」で脚光を浴びている白井聡・京都精華大学専任講師、「里山資本主義」が話題を呼んだ藻谷浩介・日本総合研究所調査部主席調査員、朝の連続ドラマ「あまちゃん」のテーマソングで日本中に知られた作曲家の大友良英さん、「日本辺境論」で知られる内田樹・神戸女学院大名誉教授の5人。

 そうそうたる論客揃いの中で、読んでいて一番心に響いたのは「もし『あまちゃん』の舞台が福島だったら」という大友さんの講演。結論はまだ相当の時間、同じような物語は難しいとのこと。一方、論客陣は福島原発事故の問題点などに直接言及していない。むしろ福島事故が起きた背景、今後の全体的な課題などを提起している。

 まず「原発再稼働で日本経済は良くならない」と題した浜矩子氏。アベノミクスを大胆にも「アホノミクス」と断言(浜氏の講演は15年3月24日だったが、最近はずばり「アホノミクス」をタイトルにした本を出している)。経済合理性とは①人間を幸せにする②恐れを知る③成長神話に惑わされない-ことだと説明。原発再稼働が人間を幸せにすることはないので、それを推進するアホノミクスは「大日本帝国に向かう富国強兵路線」以外の何物でもないと断言している。

 さらに白井氏は敗戦を否認してきたことが、戦争を天災のように捉えることになり、戦後の無責任体系を形作ってきたとし、「戦後日本に民主主義はあったのか」と問題提起。日本国家の正体は「全体に腐っているリンゴであり、原発はその中でも特に腐ったリンゴ」であり、原発再稼働は「原発事故の天災化」を進めるものと指摘。原発をなくすことは永続敗戦レジームを倒すことだと表明した。

 

▽自己破壊願望の日本人

 一方、内田氏は3.11後も日本は変われず、日本人の半数以上が震災復興よりも経済成長優先を選択したと述べ、「以前と同じでいい」との考えが暴走を意味するよう変化した。そして「暴走勢力が日本の政界、財界、メディア界、学界すべての領域で指導層になってしまったが、国民の50%が賛同しているのが今の日本だ」と指摘。自己破壊願望に取り憑かれて「こんなシステム、壊してしまおう」という虚無的でイデオロギー的な政治的言説が日本を覆い尽くしている現在、立ち止まって考えることに意味があり、節度が大事と訴えている。

 里山資本主義で福島は変わることができるとする藻谷氏の講演も読み応えがあるが、特に浜、白井、内田3氏の問題提起は、「生業訴訟」の原告だけが聞くのではもったいないと思わせる。こうした講演を理解している福島の人たちは「日本を乗り越えるだけの水準にある」との認識がタイトルになり、講演をまとめた本書が刊行されたのだろうが、「かもがわ出版」という出版社の名前は原発問題などに熱心な人以外は知られておらず、町の本屋ではなかなか手に入らないのが残念だ。

 「生業訴訟」は今年3月、担当裁判官が双葉郡の警戒区域を検証するなどして、2017年3月の結審を示している。この間も口頭弁論は続くので、本書の第2部ができるのかどうか注目したい。

 

(2016年8月31日)