書評「新刊書紹介」                                                           『戦争・731と大学・医科大学』                                           731部隊や戦争に関わった日本の医学を問い直す

 2000年に設立して以来、満州事変から第2次大戦敗戦までに至る、731部隊に代表される日本の医学軍事研究を追求してきた「15年戦争と日本の医学医療研究会」(事務局長・西山勝夫滋賀医科大学名誉教授)が編集した『戦争・731と大学・医科大学~続医学者・医師たちの良心をかけた究明』がこのほど京都の文理閣から刊行された(3600円+税)。本書は「(内地の)大学・医学部・医科大学」「侵略地における医育」「侵略地における大学・医科大学の戦後の学位授与」などからなり、戦後明るみに出た731部隊による細菌兵器開発のための人体実験・生体解剖や九州大医学部の米B29搭乗兵士俘虜生体解剖だけでなく、戦前から戦中の日本国内だけでなく占領した地域(特に旧満州や台湾)での医科大学についても考察している。

西山事務局長は2000年以降、ハルビンや瀋陽などを積極的に訪問。731部隊の実態解明を進めており、2014年には731部隊解明と日本医学会での問題点などをまとめた『戦争と医学』を執筆。2015年には同研究会編による『MO MORE 731』(いずれも文理閣刊)を世に出してきた。

 日本国内では特に安倍政権になって大学の軍事研究への参加が公然と取りざたされ、日

本学術会議も「自衛目的に限って」とする軍事研究への参加を議論するようになった。しかし戦前の日本も海外侵略にあたって、一貫して「自衛」といい「平和目的」を掲げてきた。731部隊が本拠を置いた満州は「日本の生命線」とされ、街で拉致した中国人などに対する人体実験も「日本を守る」として正当化。戦後も十分な検証や総括もされずに至っている。同じように非人道的な実験を行った「ナチ医学」に対して徹底的な検証・追求を行ったドイツとの大きな違いだ。

 戦前・戦中の軍事研究には天文学的な国費が投入されたとされているが、敗戦に際して

ほとんどの資料が焼却処分されてしまい全容は分かっていない。医学・医療についても

「(731部隊などの研究が)戦後の日本の医学に一定の学問的寄与をした」などの見解を示す研究者はいるが、具体的な例証ははっきりと示されたわけではない。何より核開発に典型的にみられるように、ほとんどの軍事科学研究は「軍民両用(デュアルユース)」であり、結果として命を救ったことがあったとしても、それで免責されるわけではない。医学に携わる立場の筆者たちによる15年戦争期の大学と医学教育の分析は今後の「医の倫理」を考える上で重要な示唆を与えるのではないか。

2016/8/30

 

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