動燃総務部次長「自殺」、20年目の疑惑

あらためて浮かび上がった原子力ムラの闇                                   

(1)次長はいつ死んだのか?

 

「監察医の診断より3時間早く死んでいた」 

 

 「監察医の診断より3時間早く死んでいた」

125日午後、東京地裁で、動燃(動力炉・核燃料開発事業団=現・日本原子力研究開発機構)の総務部次長だった故西村成生(しげお)さんの妻、西村トシ子さんが東京都と警視庁中央警察署長を相手に起こした「遺品引渡請求訴訟」の第4回口頭弁論が開かれた。

 西村成生さんはちょうど20年前の1996113日早朝、宿泊先のホテル中庭で変死体となって見つかり、警察によって飛び降り自殺と断定された。西村さんは当時、前年12月に発生した動燃の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」ナトリウム漏れ事故で行われた職員らの隠ぺい工作を内部調査していた。

 この裁判で、とんでもない事実が科学的に鑑定され、証拠採用された。その内容とは、当時の監察医が断定した死亡推定時刻より3時間も早く死亡したと推定できるというものだ。鑑定したのは法医学者と救急救命センターの医師の2人。20年前に死体を検案した東京都監察医務院の医師は西村さんの死亡時刻を「平成8113日午前5時頃」と記載していたが、当時の資料から鑑定した2人の専門家は「113日午前2時を中心にプラスマイナス1時間程度」と推定した。この推定結果の持つ意味は大きい。西村さんが自殺したとする根拠を失わせるものであり、自殺でなかったとしたら、とんでもない事件となる。動燃、原子力ムラの闇が浮かび上がってくるかもしれない。しかし残念ながら、大手マスコミは取材もせず、黙殺したままだ。

 

▽体温が10度下がるまでの時間を計算

 トシ子さんは20年間、自殺とされた夫の死に疑惑を抱き、ほとんど一人で真相解明を進めてきたが、昨年3月、当時着ていた着衣などの返還を求める訴訟に踏み切った。その過程で原告側から提出された2つの鑑定書が証拠採用されたのだ。被告側は「本件訴訟」の遺品返還とは直接関係ないと判断したのか、あるいは証拠の採否を争うことでかえって目立ってしまうことを避けたのか、2人の専門家の鑑定について意見を示さず、あっさりと原告側提出の証拠品の中に収まったが、鑑定結果は様々な疑惑を浮かび上がらせることになりそうだ。そして、この分析は推理小説のように興味深い。

 

 なぜ死亡時刻が3時間も繰り上がるという鑑定結果になったのか。これに対して前秋田大学教授(法医学)で現ケアセンター南昌の吉岡尚文センター長は、東京都監察医の「死体検案調書」と西村さんが運び込まれた聖路加国際病院救急部の「診療録」から分析した。

 診療録によると、13日午前640分ごろ聖路加病院に運び込まれた時に測った体温(鼓膜温)はセ氏27度だった。大病をしていない人間の体温は通常37度とみられるので、死亡してから病院に運ばれるまで10度下がったことになる。

 吉岡医師は13日の東京都内の気温データなどを分析、「現場」とされる中庭にずっといたとして体温の低下は1時間に2度から2.5度程度であり、10度下がるには45時間と計算。死亡推定時刻を「13日午前2時を中心にプラスマイナス1時間」とした。これは監察医の死体検案調書による死斑の状況とも矛盾しないという。25日の公判で証拠採用された大阪赤十字病院救急救命センターの山本英彦センター長(救急科部長)も、この見解を妥当と判断している。

 

 この「午前2時」の持つ意味は極めて大きい。そして幅を取って「午前1時から3時の間」としたことで、西村さんの遺書なるものが本物かどうかについて、あらためて疑問となる。

 

▽信じられない監察医の対応

 その一方で信じられないのが、監察医の対応だ。死体を検案した東京都監察医務院の大野曜吉医師は法医学の重鎮らしいが山本医師は意見書で次のように批判している。

(1)監察医が、しかも法医学会の重鎮が一病院のERに赴いて「死体検案」を行ったことは奇異。

(2)最大の疑問は外因死の原因を自殺と断定し、行政解剖を否とした点である。自殺断定の根拠は死体検案調書の遺書によると思われるが、伝聞に基づく根拠。除外診断としか言えない。他人による意図的な薬物服用後の転落の可能性など(を検討せず)、監察医の判断としては明らかな瑕疵があったといわざるを得ない。

(3)「うつ伏せに倒れていた」とすることと、死斑の状況は矛盾。①発見前に西村氏が心肺停止後早期に位置を変えられていた②病院で背臥位にされてから長時間を経て検案した③調書記載の死斑評価が間違っていた-のどれかと解釈される。

(4)頭部、顔面の写真からは転落だった場合、頭部から落下したのではなかったといえる。

(5)「頭からの出血」等の新聞報道の信ぴょう性を判断する意味でも、現場での状況の記載、いわゆる救急隊のprehospital recordが欲しい。救急隊が東京消防庁に提出した記録があるはず。

(6)救急隊の現場到着が午前6時12分、病院到着が6時39分だったが、本例のような場合はそう時間がかからないはず。

 

 また大野医師は死体検案に当たって直腸温を測っていなかったと認めている。これに対して吉岡医師は次のように手厳しく批判している。

 「当職が法医学に従事していた秋田県では、警察職員が行う検死に際し、必ず直腸内温度が測定され、変死人調書に記載されていた。大野曜吉氏の死体検案調書にも直腸温度の記載はない。警視庁の管轄下の各警察署での対応は不明だが、解剖や検案に従事した者からすると、省かれていることは通常考えられない」。

 

▽未返還着衣に手がかり?

 2人の専門家が指摘するように、大野監察医は当然行うべき直腸温も測らず、「遺書」のような伝聞証拠を元に早々と自殺と断定し、行政解剖も行わなかった。何のために、しかも死亡推定時刻を3時間もずらす必要があったのか。遺族が求めている未返還の死亡当時着ていた着衣、西村さんが未明に受け取ったとされるファクス受信紙に謎を解く鍵がありそうだ。ただ、死亡推定時刻がずれたことで、これまでの説明にも疑義が生じている。

 

(続く) 125日午後、東京地裁で、動燃(動力炉・核燃料開発事業団=現・日本原子力研究開発機構)の総務部次長だった故西村成生(しげお)さんの妻、西村トシ子さんが東京都と警視庁中央警察署長を相手に起こした「遺品引渡請求訴訟」の第4回口頭弁論が開かれた。

 西村成生さんはちょうど20年前の1996113日早朝、宿泊先のホテル中庭で変死体となって見つかり、警察によって飛び降り自殺と断定された。西村さんは当時、前年12月に発生した動燃の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」ナトリウム漏れ事故で行われた職員らの隠ぺい工作を内部調査していた。

 この裁判で、とんでもない事実が科学的に鑑定され、証拠採用された。その内容とは、当時の監察医が断定した死亡推定時刻より3時間も早く死亡したと推定できるというものだ。鑑定したのは法医学者と救急救命センターの医師の2人。20年前に死体を検案した東京都監察医務院の医師は西村さんの死亡時刻を「平成8113日午前5時頃」と記載していたが、当時の資料から鑑定した2人の専門家は「113日午前2時を中心にプラスマイナス1時間程度」と推定した。この推定結果の持つ意味は大きい。西村さんが自殺したとする根拠を失わせるものであり、自殺でなかったとしたら、とんでもない事件となる。動燃、原子力ムラの闇が浮かび上がってくるかもしれない。しかし残念ながら、大手マスコミは取材もせず、黙殺したままだ。

 

▽体温が10度下がるまでの時間を計算

 トシ子さんは20年間、自殺とされた夫の死に疑惑を抱き、ほとんど一人で真相解明を進めてきたが、昨年3月、当時着ていた着衣などの返還を求める訴訟に踏み切った。その過程で原告側から提出された2つの鑑定書が証拠採用されたのだ。被告側は「本件訴訟」の遺品返還とは直接関係ないと判断したのか、あるいは証拠の採否を争うことでかえって目立ってしまうことを避けたのか、2人の専門家の鑑定について意見を示さず、あっさりと原告側提出の証拠品の中に収まったが、鑑定結果は様々な疑惑を浮かび上がらせることになりそうだ。そして、この分析は推理小説のように興味深い。

 

 なぜ死亡時刻が3時間も繰り上がるという鑑定結果になったのか。これに対して前秋田大学教授(法医学)で現ケアセンター南昌の吉岡尚文センター長は、東京都監察医の「死体検案調書」と西村さんが運び込まれた聖路加国際病院救急部の「診療録」から分析した。

 診療録によると、13日午前640分ごろ聖路加病院に運び込まれた時に測った体温(鼓膜温)はセ氏27度だった。大病をしていない人間の体温は通常37度とみられるので、死亡してから病院に運ばれるまで10度下がったことになる。

 吉岡医師は13日の東京都内の気温データなどを分析、「現場」とされる中庭にずっといたとして体温の低下は1時間に2度から2.5度程度であり、10度下がるには45時間と計算。死亡推定時刻を「13日午前2時を中心にプラスマイナス1時間」とした。これは監察医の死体検案調書による死斑の状況とも矛盾しないという。25日の公判で証拠採用された大阪赤十字病院救急救命センターの山本英彦センター長(救急科部長)も、この見解を妥当と判断している。

 

 

 

 

 

動燃総務部次長「自殺」、20年目の疑惑 あらためて浮かび上がった原子力ムラの闇

(2)未返還遺品に隠された「不都合な真実」

 

 1996113日、動燃の総務部次長だった西村成生さんが死亡した時刻は、監察医のいう「午前5時ごろ」ではなく、3時間も早い「午前2時プラスマイナス1時間」と推定される、と2人の専門家が科学的に分析した死亡推定時刻の意味は極めて大きい。警察や動燃が断定した「飛び降り自殺」にいたる状況が全く変わってしまうからだ。

 

 「西村さんの自殺」を詳しく報じた1月13日付朝日新聞夕刊は次のように記載している。

 「西村さんは13日午前零時45分ごろ、2時間ほど前に予約したセンターホテル東京にチェックインした。ホテルの話では、同2時前に西村さん宛てに電話が2度入り、記者会見の文字が入った資料5枚がファクスで送られてきた。連絡を受けた西村さんは浴衣姿でフロントまで取りに来たが、変わった様子はなかったという」

 

 これを読むと「午前2時までは西村さんが浴衣姿で生きていた」とホテル側が証言していることが分かる。さらに同記事では、西村さんと同宿(隣の部屋)した大畑宏之理事が電話に応答しない西村さんの部屋(8階)に合い鍵で入ったところ、動燃の便箋に書かれた3通の遺書を発見。「部屋のベッドには寝た様子があり、浴衣が脱ぎ捨てられていた」とも記載している。当然ながら、部屋に入ったのは死体発見の前ということになる。ちなみにホテルへのチェックインは同紙によると「13日午前零時45分ごろ」らしい。

 

 共同通信の配信記事も同様だが、西村さんがファクスを受け取るためにフロントに行った時間について、浴衣姿で受け取りに来た時間は「午前2時半ごろ」としている。チェックイン時間は「午前零時50分ごろ」と若干ずれる。共同記事には「午前4時ごろ、宿泊客が大きな物音を聞いたという」との飛び降り自殺に誘導する信ぴょう性不明な記述もある。

 その後の警察発表では、動燃本社からのファクス受信時間は「午前230分」とされているので、ファクスが来たとしたら、浴衣姿の人物がその時間に「西村」と名乗ってファクスを受け取った可能性はある。

 

 チェックイン時間というのは、ホテルのフロントで受付を済まし部屋の鍵をもらった時刻とみるのが普通だろう。従って部屋に入ったのは午前1時過ぎで、スーツから浴衣に着替えて顔を洗ったりしていると、「午前2時前の2度の電話」の前に寝てしまったとは考えにくい。

 一方、法医学者と救急救命センターのプロが示した新鑑定では、そのころ既に死んだことになる。プラスマイナス1時間を最大限考慮しても、午前2時半にファクスを受け取って部屋に戻り、3通の遺書を書いたとしたら、午前3時までに「寝た様子」があったとは思えない。しかも死んでいたのは浴衣姿ではなく、スーツ姿だったのだから。

 

 自殺を示唆する、こうした記述はほとんどが大畑理事から示されたものであることは間違いない。大畑理事は西村さんの死体発見者である。朝日によると、発見場所は「ホテル非常階段わきの職員通用口前」。共同電では「非常階段わきにスーツ姿のままうつ伏せに倒れているのを発見」となっている。スーツ姿、うつ伏せという記述に注意したい。

 

 共同記事によると、発見は「午前610分ごろ」。これは、たぶん119番通報した時間だろう。ただし救急隊の現場到着時間が「午前612分」となっているので、その点は微妙なところだ。驚くのは、朝日の記事によると「動燃本社には午前6時すぎ大畑理事から西村さんの飛び降り自殺の連絡が入った」と、専門家でもないのに「飛び降り自殺」と断定していたことだ。

 

 その根拠としているのが「部屋に残された3通の遺書」。しかし、今回の訴訟の原告である西村成生氏未亡人、トシ子さんが『新潮45』20053月号に記載した告白手記『私の夫は「動燃」に殺された』によると、トシ子さん宛の遺書は113日朝、成生さんが運ばれた聖路加国際病院の霊安室で警察官から手渡されたという。動燃の社内箋(A4版、1枚)に書かれた遺書の右端には「H8 1.13(土) 3:40」と書かれていた。ちなみに動燃の大石博理事長宛の遺書の時刻は「3:10」となっていたという。

 

 遺書に書いた時間を記載するというのも珍しいが、西村成生さんの死亡推定時刻が「午前2時プラスマイナス1時間」となると、この遺書はみな偽造ということにならざるを得ない。そして遺書が偽造であるのなら、遺書を最大限の根拠として断定した「飛び降り自殺」そのものも信ぴょう性を失う。

 

 西村さんが亡くなった時、どんな格好だったのか。今回、西村さんの死亡推定時刻を割り出した前秋田大学教授(法医学)の吉岡尚文医師が確認した聖路加病院の診察録によると、病院に搬入された当時の着衣は上(コート・ジャケット類、ワイシャツ、肌着)、下(ズボン、パンツ)だった。これらジャケット、ズボン、ワイシャツ、靴下、下着上下、ベルト、ネクタイは今回の遺品返還請求の対象物だ。すんなり返還してもいいはずだが、警察は裁判に訴えられても、なぜ返さないのか。警察や動燃にとって不都合な真実が、そこに隠されているからだろうか。

 

2016/01/29