New!コラムno.25                                              川底に厚さ2メートルのヘドロ、瀕死の長良川はよみがえれるか? 長良川河口堰を水陸から観察  

 長良川といえば岐阜市内の鵜飼で有名だが、その下流、伊勢湾に流れ出る三重県桑名市に河口堰ができ、運用を開始してから2015年7月6日で20年たった。政治家や文化人を巻き込んだ激しい反対運動や論争の果てに完成してから20年。河口堰周辺はどうなっているのか。市民団体の「よみがえれ長良川」実行委員会が主催して7月4日行われた河口堰環境観察会に参加し、堰によって長良川がどう変わったかを見てきた。

(1)雨で霞む河口堰全景

(2)手にべったり付いた長良川のヘドロ

▽堰下流の川底はヘドロに

 河口堰運用開始20年の節目とあって観察会には60人が参加、テレビ局2社、新聞系5社が取材し、6隻の小舟に分乗して揖斐川から長良川に入って船上から観察した。この辺りは実は木曽川、長良川、揖斐川の3川が並行して流れ、伊勢湾に注ぐ。河口堰は揖斐川と長良川が合流する手前の伊勢湾から5.4キロ遡った地点にある。

 同実行委員会共同代表の粕谷志郎・岐阜大名誉教授がまず、河口から約4キロ地点の揖斐川で水深3.2メートルの川底土砂を採取。砂地で小さなヤマトシジミもいくつか見つかった。次に長良川へ。やはり河口から約4キロ、水深3.2メートルの土砂を採取したが、ヘドロだけ。手にもベッタリと付く。酸化還元電位計で測っても全く酸素はない。大雨の後だったのでヘドロ特有の悪臭はそれほどでもなかったが、近づいてみるとやはりヘドロ臭。この周辺のヘドロの厚さは2メートルに達しているという。

 桑名といえば江戸時代からシジミ、アサリなどの貝類が有名だが、粕谷名誉教授によるとアサリやシジミが取れるのは揖斐川だけ。それも乱獲で漁獲高は大幅に減っているという。

 6隻の小舟は河口堰に設けられた水門に。長良川は堰によって高低差が設けられたため、船は水門の中で水の高さを調節して上流に向かう。この差が実は「利水」目的で水を貯めている層に当たる。

(3)河口堰を勉強する観察会参加者を取材するテレビクルー


90%なくなったヨシ原

 河口堰から上流に約2キロ。船は長良川沿いに国土交通省が行っているという「ヨシ原再生現場」を観察。しかしヨシは根本から倒れていたり、点在していたり、かつては両岸にヨシが生い茂っていたというが、90%なくなってしまったという。ヨシがなくなり、表土が流出。貝やカニなどが住めなくなり、鳥や魚の餌も失われる。

(4)河口堰上流のヨシ原を調査。90%が減ってしまったという。

 さらに河口堰で絶えず水面下になった護岸にブランケットといわれる盛土をして整備した結果、岸辺には乾燥した土地に特有なセイタカアワダチソウやヤナギなどが生育している。湿地であれば植物が水中の窒素、リンを取り込み水質浄化させているが、乾燥した護岸となった結果、河口堰からかなりの上流でもヘドロ化が進んでいる。

 その証拠が、河口から約10キロ、河口堰からも約5キロ上流に上った地点で、約50メートル幅の背割堤を挟んだ長良川と揖斐川で川ガニを採取した結果に現れた。同じ人数、同じ時間で採取したのに長良川ではわずか6,7匹のカニ、それも外来種とされるアカテガニの成体だけだったのに対し、揖斐川近くの湿地ではバケツに3分の2ほどのベンケイガニが採取できた。大きさ1センチ程度の子ガニもあちこちに。揖斐川沿岸にはヨシの原が広がり、オオヨシキリの声も聞こえていたが、長良川では生き物の気配がほとんど見られなかった。

 

(5)河口から約10キロ。幅約50メートルの背割堤を挟んで長良川と揖斐川で同じ時間、同じ人々が採取したカニ。少ししか捕獲できなかったバケツは長良川。大量にカニ(ベンケイカニ)が入っているバケツは揖斐川で。

同実行委員会によると、河口堰建設前の1991年と運用開始後の2009年に、河口堰から数10キロにわたって調査した結果を比較したところ、91年では多かったマコモ、サンカクイ、ミゾソバなどが全滅。代わって乾燥した土地に生えるオニグルミ、ヒガンバナ、イ(い草の一種)が急増したという。

 

▽「命か環境か」で脅し

 垣間見ただけで木曽川や揖斐川と極端に異なり、「死んだ川」に近づいていると感じる長良川。その原因となった河口堰はどうしてできたのか。国は1960年代の高度成長期を背景に、1968年に「治水」と「利水」をうたい文句に基本計画を定めた。しかし激しい反対運動が繰り広げられ、着工したのは1988年。95年に完成し、同年7月6日に運用を開始した。

 2015年3月30日付け朝日新聞朝刊(名古屋本社版)によると、「建設当時、河口堰擁護論の切り札は『治水』だった。反対市民や政治家に、地元首長らは『命か環境か』と切り返した」という。東北の巨大防潮堤でも「命か景観か」という脅し文句が行政から発せられマスコミは沈黙してしまったが、20年以上前から同じような恫喝が行われていたことに衝撃を受けた。

 河口堰は幅661メートル、10門の調節ゲートを持つ。総工費は1500億円。維持費は毎年10億円とみられている。河口堰の目的は「治水」と「利水」だったが、現在では「利水」が大きな理由となっているという。だが水を貯めるため堰の山側を浚渫し22.5立方メートルの水資源が生まれたというが、実際に使われているのは3.6立方メートルで16%でしかない。「利水」は愛知県、三重県、名古屋市で利用できるというが、使っているのは愛知県知多半島地域と三重県中勢地域だけで、名古屋市は導水路すら建設していない。それでも毎年多額の費用を負担している。

 7月6日付中日新聞朝刊によると、河口堰運用開始から来年3月までの維持管理費は総額239億円に達するという。「造られると、莫大な費用を必要とし続ける巨大公共事業の実態が浮き彫りになった」と同紙は指摘している。その費用は住民が負担し続けるので、行政は自分の懐が痛むという感覚はないのだろう。こうした後年度負担を平気で計上する考え方は、今議論になっている新国立競技場建設でもいかんなく発揮されている。

 

アユがレッドリストに

 余っている水の管理費用が嵩む一方で、環境は悪化している。岐阜市は今年、絶滅の恐れのある野生生物の「レッドリスト」を初めて作成し、鵜飼で有名なアユ(天然アユ)を「準絶滅危惧種」に指定した。アユは川で産卵し、孵化した稚魚は海に下って沿岸域で成長し川を遡上する。「準絶滅危惧種」になった原因は河口堰であることは間違いない。アユだけでなく、同じような生態のアマゴ(サツキマス)はさらに危険な「絶滅危惧Ⅱ類」に指定された。

 長良川の現状に誰も危惧を抱かなかったわけではない。愛知県・有識者会議の専門委員会は4年前の2011年に「最低5年以上の」開門調査すべきとの報告書をまとめている。大村秀章・愛知県知事も選挙公約に開門調査を入れた。しかし国や岐阜、三重両県の反対で実現に至っていない。

 「よみがえれ長良川」実行委員会は7月4日の現地観察会に続いて、5日には岐阜市でシンポジウムを開催し、あらためて開門調査を訴えた。7月28日には愛知県が有識者による検証委員会を開催することにしている。瀕死の長良川を救えるのか、ギリギリの決断が迫られている。

201578日)