コラムno.18                                                       アマモの海草場が温暖化を抑制 CO2を吸収する海のカーボン・オフセット

地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出をいかに抑えるかが、世界共通の課題となっている。温室効果ガスの排出を抑制するにはまず排出削減努力が必要だが、どうしても排出する温室効果ガスについて、排出量に見合ったガスの削減活動に投資する(植樹や排出権売買)などで、排出される温室効果ガスを埋め合わせようという「オフセット」という考え方も提唱されている。

主に陸域の植樹などで補う「カーボン・オフセット」はグリーン・カーボンと呼ばれる。これに対して海洋生物にもカーボン・オフセット機能があるとして「ブルー・カーボン」という取り組みが注目され始めた。

ブルー・カーボンとは国連環境計画(UNEP)の環境セクションが2009年提唱した新しい考え方。UNEPレポートは地球上の生物が固定化する炭素のうち、マングローブ、アマモ海藻類、プランクトンなど海洋生物の吸収する炭素は55%と発表している。

このブルー・カーボンに取り組んでいる横浜市がこのほど「第3回ブルー・カーボン・シンポジウム」を開催した。横浜市は東京湾という内湾に面しているが、「海洋都市」を標榜しているだけに、国や他県に先駆けて事業化も始めているという。

シンポジウムでは、独立行政法人港湾空港技術研究所の桑江朝比呂・沿岸環境研究チームリーダーが世界で初めて突き止めたというブルー・カーボンの炭素固定効果調査結果を報告した。日本沿岸の海草場(砂泥性のアマモなどで覆われた浅い海、これに対しコンブやワカメが生息しているのは藻場という)が大気中の二酸化炭素吸収源になっていることが分かったという。

桑江氏らは北海道・風蓮湖や東京湾の横須賀市走水一帯、石垣島など全国で調査。海草場の海洋生物は呼吸や分解を上回る光合成があり、その分CO2を吸収していることが判明。特に、沿岸域の狭い浅い海底に50%のカーボン吸収域があった。アマモは地下茎が海底土に根ざしているが、蓄積速度が速いうえ、堆積した炭素は数千年間大気に戻らない。海底に埋没したCO2は今後も未分解のまま海底の堆積物中に貯まったままでいると効果は高い。なおかつアマモの生育域は世界に広がっている。

桑江氏によると、アマモなど海草場の温室効果ガス削減効果自体は陸域に比べると大きくない。ただ相乗効果があると強調。従来から知られていた稚仔魚の成長の場という役割に、大気中CO2吸収による「気候変動の緩和」という新たな価値を加えるものと指摘した。

しかし近年、水底質の悪化や浅海域の消失が海草場の脅威となっており、海草場のCO2吸収能力や、炭素貯留能力が減じられている。このため脅威にさらされている海草場の保全や再生といった取り組みが、気候変動対策に寄与するものと強調した。

UNEPレポートまでブルー・カーボンによるオフセットが評価されなかった理由は、アマモやヨシなどの海草藻類などが生育してCO2を吸収しても、枯死するときに再度分解してCO2を排出するのでオフセットされないと見なされていたためという。しかしUNEPレポートは一部が有機物として海底に泥のような形で固定されるのでゼロにはならないとした。桑江氏らの調査はUNEPレポートを裏付けるものだ。

ブルー・カーボンによる炭素固定のメカニズムは、海草藻類が吸収したCO2が枯死しても一部が固定され沿岸生態系の中で蓄積される「系内埋没」と、アマモなどが流れ藻になり、外洋や深海などに沈降してCO2を固定する「系外埋没」があるとされるが、最近はさらに藻場や干潟を新たに造成することで生物量が増えてCO2を固定するという考え方が出ているともいう。

同シンポでは独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球表層物質循環研究分野の本多牧生上級技術研究員が地球観測船みらいで太平洋の深海を調査したデータも発表した。本多氏によると、水中3000メートルの海水温度が0.037度上昇しているのが確認された。これは地表の気温を35度上昇させる熱量に相当するという。

地球の海と陸を比較すると、比率は7対3と海の方が広い。この海の温室効果ガス吸収を考えようというのがブルー・カーボンだが、グレーな部分が多いとして世界的なオフセットの対象にはなっていない。しかし日本の海洋面積は先進国の中で6位。きちんと評価し、海草場を保全すれば、温室効果ガス削減目標達成の切り札になる可能性が大きい。

環境省の小委員会はこのほど、地球温暖化による人命や経済の損失という観点から重大性が高いとする9項目を挙げ、早急な対策に着手するようもとめる報告書を発表した。その中には海面上昇に伴う高潮・高波の危険性も挙げられているが、海洋生物の揺りかごといわれる海草場や干潟を埋め立て、陸と海とをコンクリートで遮断するのではなく、ブルー・オフセットの考え方を取り入れた対策が必要だ。

2015125日)