コラム


地球温暖化軽減にどこまで踏み込めるか

 

 「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第39総会と第5次影響評価報告書第3作業部会がドイツのベルリンで始まった。先月末には横浜で第38総会と第2作業部会が開かれており、気候変動と地球温暖化に対して世界レベルでの協議が続く。

 しかし日本で初めて開催されたIPCCに世間の関心は薄かった。331日に発表された報告書に対する新聞各紙の報道をみても、関心の度合いが分かる。

 まず31日付夕刊の1面トップで扱った全国紙は毎日と読売のみ。朝日に至っては2面の右肩扱いだ。主見出しも皆異なる。読売は「気温2度上昇『穀物減少』」、毎日は「世界的食糧危機を警告」、朝日は「4度上昇なら環境激変」となっている。後述するが、ここまでは報告書のどの部分に焦点を当てるかという差であり、本質から外れていない。これが地方紙となると様相が異なる。東京は同日夕刊の1面左肩で「超大型台風、頻度3倍も」、夕刊の1面トップに持ってきた静岡は「温暖化、安全保障に影響」、北海道新聞となると「温暖化で紛争拡大」とずれている。調べた範囲では紙面に掲載していない地方紙も結構あった。テレビも、NHKを除いてきちんと報じたかどうか確認できなかった。これでは大半の国民は地球温暖化に対する認識を深めることは難しいだろう。

 地球温暖化という言葉はいまでは、誰もが知っている。しかし、どんな未来になるのか。内容までは詰めて考えていないのではないか。IPCC会議からもう一度おさらいしてみたい。

▼温暖化による気候変動は既に出現

 IPCCの第5次評価報告書は4部門になっている。今回横浜で開催された第2作業部会は「影響・適応・脆弱性」をテーマに、「生態系、社会・経済等の各分野における影響および適応策」について評価した。昨年9月にはスウェーデン・ストックホルムで科学的根拠をテーマとした第1作業部会が開かれ「気候システムおよび気候変動」について評価した。現地時間の7日から始まった第3作業部会は「緩和策」、ずばり「気候変動に対する対策」を評価する。一連の作業部会報告を受けて、10月には第5次評価の総合報告書を承認する総会がデンマークのコペンハーゲンで開催される。

 今回の第2作業部会報告は温暖化による地球規模の気候変動がすでに出現していると、初めて踏み込んだのが第一の特徴だ。今冬の南関東、首都圏をおそった大雪被害は記憶に新しいが、異常気象があちこちで起きていると多くの人が認識している。IPCCはそれを温暖化の影響と認定することで、影響が出るのは将来の話ではなく、既に深刻な問題になっていると警告した。

 気候変動に関する影響評価は1990年から始まったが、7年前の第4次までは「恐れがある」と断定していなかった。現実に影響が多方面に出ていることを受けて、第5次では気温上昇を抑えるのではなく、一定程度の上昇にとどめるための温室効果ガス削減案とともに「適応策」も評価するのが要点となっている。

2度上昇にとどまるか、4度まで進むか

 IPCCは第5次の評価を始めるに当たって、将来の気候変動を予測するシナリオとして、政策的な温室効果ガス削減策を前提とし、将来の温室効果ガス安定化のレベルとそこに至るまでの道のりのうち代表的なものを選んだ。この「代表的濃度経路」(RCP)シナリオによって、温暖化抑制のための社会経済シナリオを複数作成して政策に反映させることが可能となる、としている。

 IPCCは昨年9月にまとめた第1作業部会で、4つのRCPシナリオを検討。温室効果ガスを大幅に削減した場合とこのままで推移した場合を比較し、2100年までに2.6度から4.8度気温が上昇すると予測している。

 今回は第1作業部会の予測をもとに、このまま推移して2100年までに気温が4度上昇した場合と、2度に抑えられた場合に想定される影響を、比較できるかたちで初めて示した。先の新聞各紙の見出しで「2度」と「4度」が出てきたのも、この2つのシナリオのどちらに重点を置いて書いたかということに他ならない。

 地球全体の気温上昇によるリスクとしてIPCCは①海面上昇、沿岸での高潮被害など②大都市部での洪水など③極端な気象現象によるインフラ等の機能停止④熱波による、特に都市部の脆弱な層の死亡や疾病⑤干ばつ等で食料安全保障が脅かされる⑥水資源不足と農業生産減少⑦海洋生態系の損失⑧陸域と内水生態系のサービス損失-の8項目を提示。4度の上昇となった場合は、洪水や干ばつなどの異常気象発生率が高まり、人の健康や植物生産などが深刻な打撃を受ける、と予測。食糧危機や水資源争奪で紛争が多発する恐れを指摘している。その影響も、数世紀に及ぶとしていることが注目される。一方、2度の上昇に抑えるシナリオでは、異常気象の影響は受けるものの、リスクは4度に比べはるかに低いとした。

▼削減案の合意はどこまで

 現在、ベルリンで開催されている第3作業部会は従って、気温上昇を2度レベルに抑え気候変動を緩和するために、各国が温室効果ガスをどこまで削減するかが中心的な議論になる。しかし、この削減問題は先進国と途上国、途上国同士などの利害が対立し、最も合意困難なテーマである。

 朝日新聞は10日付朝刊で「先進国、温室ガス半減必要」との記事を掲載した。第3作業部会の文書案で、先進国は温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で半減させる必要があると記載されているのが分かったという内容だ。最終決着まで紆余曲折はあるだろうが、いずれにせよ大幅削減が求められることは間違いない。

 

 2009年に当時の鳩山由紀夫首相が国連で「日本は2020年に1990年比25%の温室効果ガスを削減する」と表明したとき、国内では経済界や「有識者」がこぞって非難した。そんな削減では産業界が大変な目に遭うという理由だ。一方で、この報告書を受け、政府が温暖化軽減策の一つとして原発の再稼働や新設を持ち出してくることも予想される。環境省のプロジェクトチームは先月「日本の平均気温は2100年頃3.5度から4.6度上昇する」という予測をまとめた。このまま推移すると、4度ラインになるという。いまから80年後の人たちがどんな生活になってしまうのか、次世代の人々に評価されるような対策を講じられるのかどうか。今生きている国民一人一人が問われている。